今度の旅はレアバスで・第7回



柏木公園の謎

神奈川中央交通 大16 相模大野駅→柏木公園





 1日1〜3便程度しかないバスを僕は勝手にレアバスと呼んでいるが、そんなレアバスにも有名な路線がいくつかある。なかでもJR横浜線淵野辺駅(神奈川県相模原市)と登戸(川崎市多摩区)を結ぶ、休日のみ1往復運転の神奈中バス・淵24系統は、神奈中ファンなら誰でも知っている(たぶん)路線である。都市部では数少なくなった長距離系統である事、神奈中エリア外と言っていい川崎市へ足を踏み入れている事が知名度の高い要因かと思う。

 今回はそんなレアバスの大本命、淵24にとうとう乗ってみるつもりである。2001年12月23日(日)、別件で東京都国立市まで行った帰り、僕は淵野辺駅に降り立った。時刻は14時16分。絶妙のタイミングで着いたはずだった。そして乗り場の時刻表を見て初めて知った。

 淵24発車時刻、7時丁度に改正。

 そして年が明けた。

 2002年1月26日(土)、やって来たのは小田急線相模大野駅(相模原市)である。もともとは駅構内ばかり大きくて何もない所だったが、何年か前に駅ビルとペデストリアンデッキができて面目を一新している。そのかわりデッキ下のバス乗り場は薄暗い。隣の町田も厚木のバスターミナルもそうで、これは神奈中かこの辺りの自治体の癖なのだろうか。

 今日乗る大16系統は平日2本、土曜1本のみ運転される。バス停に掲げられた系統図を眺めると、同じ経路でさらに町田バスセンターまで行くバスがある。奇妙な事に、時刻表では「柏木公園止まり」と表示しているのに、系統図では大16は「グリーンハイツ行」となっている。「柏木公園」という平平凡凡とした名の公園が如何なるところなのか興味を持ってやってきたのだが、 それ以前に公園までバスが行くのかどうかがよく分からない。

 すでに発車時刻の13時30分まで10分を切っている。家族連れや老人が周りにいるが、はたして大16を待っているのであろうか。少なくとも35分発の成田空港行を待っている客には見えない。

 なかなかバスはやってこない。発車時刻直前にようやく来たと思ったら、これは40分発の小田急相模原駅行であった。これではわが大16が止まる場所がないが、どうするのだろうか。

 13時34分、ようやく大16のバスがやってくる。しかしすぐ前を走っていた別のバスが道路をふさいで客を降ろしており、乗り場に近づく事すら出来ない。いまいましげにクラクションが鳴るが前のバスは動かない。ようやく小田急相模原駅行バスの隣に止まり、ドアが開く。後ろを見ると今度は成田空港行のバスが立ち往生し、このバスが道を空けるのを待っている。どうもこの駅前広場、設計がよろしくない。

 13時36分、6分の遅れでわが大16は発車した。行き先表示は「大16 グリーンハイツ」となっており、運転手は肉声で「柏木公園行です」と言い、案内のテープは「グリーンハイツ経由柏木公園行」と告げる。よく分からないがとりあえず公園へは行くようである。

 相模原エリアのバスは前乗り前降り後払いのはずだが、このバスは前乗り中降り前払いである。均一運賃区域ではないから、下車停留所を申告して運賃を払う。このシリーズ最初に乗った町03も同じ方式だったが、 なぜ他の系統と運賃収受方法を分けるのか理解に苦しむ。とりあえず終点のバス停名がはっきりしないから、一番高い金額の190円を運賃箱に入れる。

 バスの車体は他の系統より一回り小さい。加えて車体が青い。神奈中は通常黄色系の塗装だが、ノンステップ車は青色をまとう。以前市ヶ尾と若葉台を結ぶ柿26に乗ったときもそうだったが、どうして客の殆ど見込めないレアバスに特別仕様車を投入するのかと思う。

 ところが大16はお客が乗っている。それも1人や2人ではない。数え忘れたが10人は超えている。小型バスだから満席である。どうみても普通の買い物帰りの客で、レアバスっぽくはない。後ろの席に、家族連れがお雛様のように段々になって座っている。

 それにしても相模大野の都会っぷりはどうだろう。メインストリートの賑わいは本厚木にもひけを取らない。次のグリーンホール前にも立派なバスターミナルが作られている。しかし乗客は誰もおらず通過。大16への客がいないのではなく、ターミナル内に人っ子1人いなかった。仏作ってなんとやら。

 繁華街が途切れたところで国道16号線に入る。いつ乗ってもどこを通っても混んでる国道で、案の定渋滞している。16号を通るんじゃ遅れたのも仕方ないな、と思ってると工事で1車線規制をしていた。昼間の16号で規制をかけるのは、率直に言って常軌を逸している。

 工事現場を過ぎれば渋滞は解消し、バスは程なく右折した。鎌倉街道で、すぐ前にはグリーンホールに寄らずに先行した成田空港行のバスが走っている。次が「グリーンハイツ入口」で、初めて下車客がある。すぐに左折し、いよいよ団地内へと入る。

 昭和40年代頃の建築と思われる団地の中をバスは進む。停留所間隔が短く、100mを切っているのではと思われる場所さえあった。くねくねと角を曲がるたびに道は狭くなり、やがて アパートの駐車場の中をすり抜けるような格好になった。なるほど、これでは小型バスでしか運行できまい。

 「C3前」で外国人のカップルが降りて誰もいなくなる。次を右折して「北公園」、もう1度右折して「F4前」。停留所名が味も素っ気もない。さらに右折したところが終点「柏木公園」で13時50分着。目の前のスーパーに見覚えがある。団地を1周して、ほぼ元の場所に戻ってきたらしかった。バスはそのまま鎌倉街道の方向へ走り去る。「あれ、回送なんだ」とバス停にいた女の子2人が目を丸くする。

 バス停にはワープロ書きの紙が貼ってあり、「12年4月からグリーンハイツ線は団地内に乗り入れます」との旨が系統図を添えて告知されている。その告知と時刻表を眺めて、ようやく僕は合点が行った。

 新原町田グリーンハイツは町田を名乗るが相模原市内にある。しかし相模大野駅よりも町田駅(元・新原町田駅)の方が近い場所にあり、町田バスセンターまではおおよそ20分の間隔でバスが運行している。町田からやって来てハイツ内を時計回りに循環し、町田へと戻る系統が殆どであるが、1時間に1本の割でハイツ内を循環した後相模大野駅へ足を伸ばすバスがやってくる。つまり町田-町田、町田-相模大野2系統合わせて、町田へ20分毎、相模大野へ1時間毎のバス便が確保されている。

 ところが運用の都合上からか、町田・相模大野発いずれもハイツ内を循環した後に町田へ戻らず、回送になってしまう場合がある。この場合、ほぼ団地内を1周した柏木公園バス停が営業上の終点になると言うわけだ。グリーンハイツまで行く事に変わりはないから、大16は系統単独としての本数が少なくても客は乗るし、ぐるりと1周した柏木公園まで乗り通すニーズがないので「グリーンハイツ行」という案内がされたのだ。

 なるほどと納得して、改めて問題の柏木公園を眺める。予想はしていたが、やはりごく普通の、小さな小さな公園であった。


(つづく)


2002.2.3
on line 2002.9.8
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