今度の旅はレアバスで・第1回

 手元に「小田急時刻表」がある。巻末を開くと、各駅前発のバス時刻が掲載されている。首都圏の私鉄でもっとも混雑の激しい小田急のこと、バス路線も系統数・本数共に充実している。

 が、なかに不可解な路線が何本かある。1日数本しか運転されていないのだ。小田急沿線において、そんなに需要の低い僻地はそうそう無い。むしろ実質廃止になった系統を、免許存続の為だけに残してあるといった要素が濃いようだ。

 そんな「レアバス」に乗って、小旅行に出かけてみようと思った。


買物バスは前払い

神奈川中央交通 町03 玉川学園前駅→町田バスセンター





 2001年2月18日(日)、東京都町田市の玉川学園前駅で下車する。「〜学園前」といえば、小田急には成城学園前駅(世田谷区)があるが、あちらはもうすっかり市街地化していて「学園」の雰囲気は薄い。それに対しここ玉川は、学校内の森と住宅街の中にわずかに残った雑木林が落ち着いた雰囲気を醸し出している。駅前にはマックやドトールといった若者向けの店が並んでいるが、こぢんまりとしていてこの静かな街並にふさわしい。急行の止まらない小駅であるのがまた良い。駅構内の案内板が昭和50年代のタイプから取り替えられていないのもレトロだ。

 そんな玉川学園前の駅前にはロータリーが無い。タクシーの客待ちスペースがあるのみである。しからばバスはというと、北側の駅前通りに面してポールが立っている。これが目指す町田行の乗り場…と思い近づくと松風台行とある。小田急時刻表には無い系統で、いきなり意表を突かれる。しかしこのバス停、時刻表がどこにも無い。どうも謎である。

 町田行のバス停はその向かい側にあった。系統図には町田バスセンター行とバスターミナル止まりの2本が書かれているが、時刻表によれば全便バスセンター行である。ターミナル行は廃止されたのだろう。どちらにしても系統番号は「町03」。渋谷・八王子と並ぶ都内屈指の路線バス集積地である町田で、栄光の背番号系統番号3は伊達ではない。しかしその運転本数たるや1日たった2本。しかも土休日のみの運行である。そしてこの町03が、玉川学園前駅を発着する唯一のバス路線である。バス停の前には堂々とマイカーが止まっている。玉川住民に、バスという乗り物は認知されていないだろうか。

 発車時刻の10時37分まで間があり、まだバスも来ていないので謎の松風台を探しに行く。時刻表なしのバス停系統図によれば、駅から1つ目の停留所である。が、住居表示にそんな地名はなく結局見つからない。あきらめて引き返すと、駅前の踏切を向こう側へ渡っていく神奈中バスが見えた。その先が松風台なのだろうか。

 駅バス停に戻ると車はどいていて、驚くべきことに1日2本のバスを待っている客がいる。おばあさんの2人連れである。待つほどもなくバスが踏切の方からやってきた。最近神奈中でやたら見かけるようになった小型タイプ車である。あるいは松風台まで行ってきたのではと期待したが、側面行先表示を見ると駅が始発となっていた。しかるべきスペースで折り返してきただけらしい。

 前ドアが開いて、パスを見せながら乗り込んだ先客に続いて席に着く。と「運賃先に払ってください」と注意されてしまった。町田のバスは通常、僕の住む伊勢原あたりと同様に運賃は距離変動制で後払いである。一方玉川学園前の1駅新宿よりの鶴川駅から出るバスには、隣接する横浜・川崎市に習って均一運賃先払いになっている系統がある。町田へ向かうバスだから後払いだとばかり思っていたが、鶴川側にあわせたらしい。運賃は210円。横浜市内均一運賃と同額である。

 定刻通りに発車すると、商店街の中を走り、次のバス停で4人も乗り込む。とてもレアバスとは思えない賑わいだが、無料パス(都営バス以外でも使えるとは知らなかった)を持っている人が多い。それで合点が行った。町田市街に買物に行くのに、小田急線を使わずこのバスに乗れば無料なのである。今乗っている便の町田着は11時少し前、もう1本はその1時間前を走っている。なるほど買物にはちょうどいい時刻設定で、本数は少なくともそれなりに考えられたダイヤなのだ。

 商店街が尽きると上り坂となり、小さな丘を越える。その先で一つ十字路を過ぎると、バス停の時刻表表示が賑やかになった。ここからは別系統のバスが1時間に3〜4本程度は運転されているようだ。こどもの国(横浜市青葉区)に近い、成瀬台からの便らしい。

 バス停ごとに客が乗ってくる。地元の人ばかりに見受けられるが「運賃先に払ってください」と言われる人が何人かいた。おそらくこの町03以外は皆、町田の流儀に従って後払いなのであろう。運賃はいつの間にか210円から190、170円と下がってきた。前払いにもかかわらず運賃が変動するとは珍しい。運賃制度の境界エリアを走っているゆえの現象である。そういえば横浜市瀬谷区の相鉄バスが、下車停留所を運転手に申告した上で前払いという変わった制度を採用している。あそこも均一運賃の横浜市街と距離制の大和の境界地域にあたっている。

 もう1度丘を上ると町田市役所の角に出る。近くの視力回復センターに子供の頃通っていたので、街並に見覚えがある。もう町田駅まで徒歩圏である。しかしバスは町田の繁華街を遠巻きにするようにぐるりと迂回し、10時51分、東急ハンズの下にある町田バスターミナルに滑り込んだ。このあたりは小田急町田駅からだと相当歩くから、やはりレアバスの存在意義が出てくる。事実乗客全員がここで降りた(他に途中で降りた客が2名)。1人残っているのもなんだか恥ずかしかったので、僕も降りる。バスはここから目抜き通りを北上し、小田急駅に隣接した町田バスセンターまで走る。

 東急ハンズからJR町田駅を経て小田急町田駅までは長い長い商店街が続いている。日曜のお昼前とあればさすがに人が多い。思えば子供の頃、町田は僕の中で「大都会」と認識されていた。今でもやはりそう思えるのは、僕が田舎ものである証なのだろうか。浜崎あゆみ、ポルノグラフィティ、ミニモニ。…店頭から流れてくるヒット曲に耳を傾けながら、僕はのんびりと駅に向かった。

 町03は今乗ってきた便が最終である。無料パスで買物にきたおばあさん達は、帰りは駅まで歩いて小田急線に乗らなくてはならない。それでもバスで15分のところを、電車は3分で駆け抜けてしまう。何せ玉川学園前は町田の隣の駅である。


(気ままにつづく)


2001.3.3
on line 2002.9.1
Copyright(C)tko.m 2002

第2回へ    お散歩ジャーナルへ   MENUへ

inserted by FC2 system