今度の旅はレアバスで・第12回



たっぷり楽「C」江ノ電バス

江ノ電バス (系統番号なし) 藤沢駅北口→鵠沼車庫(上村経由)





鵠沼車庫  上村経由鵠沼車庫行の江ノ電バスは、本シリーズにおいて鬼門のような存在である。

 初めて乗りに行ったのは2001年の5月だった。しかし、事前に調べた時刻と実際の運行時刻が食い違っていて乗り損なった(第3回)。翌年の5月に再び藤沢に行った時には、駅に着くのが遅れ3分差で逃げられている(第9回)。

 こんな路線はとっとと乗ってしまうに限るのだが、その後藤沢駅前へは足を向けていない。日曜昼という絶好の運行時刻(休日片道1本のみ運転)にもかかわらずそんな状態であるのには、もう1つ理由がある。この路線、面白く無さそうなのである。終点の鵠沼車庫のバス停が、小田急鵠沼海岸駅(藤沢市)から少し歩いた住宅街の中にあるのは知っている。バス停前の通りは、藤沢市街へまっすぐ通じている。おそらく1本道を淡々と走るだけのバスであろう。

 だから今回(2003年1月12日・日)藤沢へ行ったのは、他に乗る路線がなかった、という理由に過ぎない。期待はほとんどしていなかった。ところが結果は予想を大きく超えることとなった。


 藤沢駅の北口を出ると、正面いちばんいい位置に静岡銀行が建っている。ペデストリアンデッキから駅前ロータリーを見下ろせば、スルガ銀行もある。どうもここは神奈川というより静岡県の匂いがする。湘南の明るい風土もあるいはそう錯覚させているのかもしれない。

 鵠沼車庫行の乗り場は、バスターミナルの先端にある。次々とバスがやって来るが、神明車庫行の神奈中バスばかりである。果たして江ノ電バスはちゃんと現れるのだろうか、とやきもきしていると、定刻12時20分ぴったりにオレンジ色の車体が姿を現した。

 ところがこのバス、側面の経路表示幕が鵠沼とは方向違いの「辻堂駅」行になっている。しかし前面には「上村経由鵠沼車庫」とあるし、何よりこのポールに発着する江ノ電バスは1日に、いや週にこの1本きりである。多分故障だろう。写真を撮る間もなくあたふたと乗り込むと、バスはすぐに発車した。

 2度3度と信号待ちを繰り返すものの、バスはすぐに繁華街を脱出して工場と住宅街が入り混じったエリアへと入っていく。左手に東海道線との立体交差路が見えるが、バスは西へ真っ直ぐ進んでいく。藤沢駅西側の住宅街をちょっとひと回りしてから、鵠沼へ向け南下するのだろうと予想してみる。

 小田急線の下をくぐり、湘南高校手前で左折、すぐに右折してなおもバスは西へと向かう。バス停間隔は短く、反対車線には藤沢駅行のバスが頻繁に現れるが、神奈中ばかりである。

 それにしても東海道線の線路を乗り越え、もしくはくぐり抜ける気配が全く感じられない。車庫のある鵠沼海岸地区からどんどん離れていく。あるいは僕が、車庫の場所を勘違いしているのだろうか。電柱の住居表示には「鵠沼神明」とある。この辺りに営業所があって終点、となるのかもしれない。

 ところがバスは、そのまま引地川を渡ってしまった。鵠沼を飛び出し、住居表示は「辻堂新町」に変わる。いったいどこに向かうというのだろう。このままでは東海道線の隣駅、辻堂まで行ってしまう。完全に方向違いだ。

 はたせるかな道は大通りにぶつかって途切れ、バスはぐいと左折した。正面に辻堂駅舎が見えてくる。藤沢駅からここまで15分。バスの側面に掲げてあった「辻堂駅」行の表示は、どうやら故障ではなかったらしい。週1本のこの系統には経路表示幕すら用意されておらず、途中の辻堂までの幕で代用しているらしい。なんたるいい加減さ!

 が、そこで驚いたのは時期尚早であった。バスはなんと辻堂駅を目前にして左折し、駅前に入ることなく東海道線の下をくぐり抜けてしまったのである。くるくると経路表示幕を動かす音を車内に響かせつつ海側に出ると、南口のロータリーにも寄らずにそのまま南下する。このバス、客を乗せる気があるのだろうか?

 少々レトロな雰囲気を漂わせる接骨院や美容室の前をかすめ、湘南工科大学の門前を通過し、バスは一路南へと向かう。鵠沼はこのエリアからだと真東に相当するが、バスはいつまでたっても左折せずマイペースに南下する。立派な枝ぶりの松が道路に張り出している。前方の風景が徐々に広がってくる。

 そしてとうとうバスは、海岸沿いの国道134号へと出た。防砂林の向こうで、湘南の海が午後の日にきらめいている。サーファーの姿もある。サザンオールスターズの世界である(加山雄三も可)。まさかこのバスで、134号をドライブすることになろうとは思わなかった。つまらない路線だと決めてかかっていたのは大間違いであった。

 やがて沿道の表記が「辻堂海岸」から「鵠沼海岸」に変わる。「江ノ島入口1km渋滞」の電光表示が現れるが、巻き込まれる前に海岸に別れを告げて左折する。再び引地川を渡れば、鵠沼車庫バス停はすぐそこであった。時刻は12時43分、藤沢駅からの所要は23分、運賃は320円、そして乗客は始発から終点まで僕1人。
大鳥居
 バスから降りてみれば、そこはやはり当初予想していた住宅街の中であった。目の前の大鳥居に見覚えがある。それにしても大回りしてきたものだ。藤沢駅から真っ直ぐ南下してくれば2km程度しかないのに、〜辻堂市街〜辻堂海岸〜鵠沼海岸〜とアルファベットのCの字を描いたかのような経路であった。なおかつ、目前の辻堂駅前をスルーするという奇行までやってのけたのだから、全くもってこの路線侮れない。

 JRをくぐる際に動かしていた側面の経路表示幕は、辻堂駅と鵠沼車庫を結ぶものとなっていた。どうやらこの路線、藤沢〜辻堂と辻堂〜鵠沼車庫の2系統を運用の都合か何かで繋げてしまったのが発祥と推測される。しかし、辻堂駅前に入らない理由は全く見当がつかない。

 ところで、肝心の「車庫」はどこなのだろう。以前この地を訪れた時にも、バス停はあったが営業所を見かけた記憶がない。通りを見渡すと、折りしも回送バスが路地へと消えていくのが見えたので、後をつけてみる。家並みの先にはいかにも海際らしい、あっけからんとした広大な車庫が広がっていた。


(つづく)


2003.1.28
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