TOKYOちかてつWALKER・第10回



ごきげんよう板橋、三田線

本蓮沼〜蓮根(板橋区)




三田線路線図

 2004年1月11日(日)、JR板橋駅にやって来た。

 まだ「赤羽線」と呼ばれていた時代から埼京線には何度も乗ってきたが、この駅で降りたのは初めてである。この板橋という区、生まれ育った練馬から目と鼻の先なのになぜか縁が薄い。駅前を見渡せば、池袋の隣駅とは思えないほどのんびりとしている。「大学いも」の看板を掲げた店など眺めつつ裏道風情の連絡道路をたどると、国道と首都高速に押しつぶされたかのような小さい地下鉄入口が現れた。都営三田線新板橋駅である。

 三田線の巣鴨以北に乗るのは、数えあげてみると、なんと13年ぶりである。代替わりした電車に揺られていたこの時、まだ僕は今回のスタート地点を「ホン蓮沼」駅だと信じ込んでいた。


 13時20分頃、本蓮沼着。読みは「モト蓮沼」であった。改札脇にはレトロな雰囲気さえ漂わせた古びた定期券発売所があって、おばさんが客を待っている。地上へ出ると、そこは中山道(国道17号線)蓮沼町交差点の前で、毒々しい色彩の靴屋やパチンコ屋、庄屋に松屋がこぢんまりと固まっている。駅前のバス停に、次々と緑色(昔より明るい色調に変わったようだ)の国際興業バスがやってくる。

 17号線を北西に向かって歩き始める。片側2車線の広い街道である。沿道には2階建ての小さな個人商店が並んでいる。木造のタバコ屋の窓口に、ニコスカードのCMに出てきそうなお婆ちゃんがちんまりと座っている。材木屋の店先に、ずらりと角材が並べられ陽に照らされている。昔はどこの町にも、こんな感じの材木屋さんがあったように思うのだが、いつの間にか見なくなったような気がする。大通りを歩いたってさして面白くないのがこの紀行の常だが、この界隈なかなかに雰囲気が良い。勿論、国道から分かれる路地だってなかなかの佇まいだ。

 ぽつぽつとマンションが混じり始めた。左側には要塞のごとく堅牢な志村警察署が現れ、右側には凸版印刷の工場敷地が広がる。工場のレンガ塀に沿って裏道へ入り、印刷会社がいくつか建っているのを眺めたりしているうちに志村一里塚交差点へと着く。時刻は13時40分、ここに志村坂上駅の入口がある。「坂上」よりも「一里塚」の方が駅名としては面白そうなのに、と思う。こんな所にも日英中韓4ヶ国語を網羅した案内板が立てられている。ハングルも随分メジャーになったものである。
志村坂上にて
 マックやドトール、そしてスリーエイトというコンビニの並ぶ一角を抜けると、17号線は一気に下り坂になる。駅名の通り、ここは台地の北端なのだ。ちょっとした眺望地だ。坂の途中に、オリエンタルイーストという名の工場とお寺が並んでいる。工場のタンクとお堂が、よく似た姿で兄弟のように向かい合っていて何だか微笑ましい。

 白山(文京区)付近からずっと17号線の下を走ってきた三田線は、ここで左にカーブを切って、台地の斜面から地表へと顔を出す。この先終点までは高架線である。トンネル出口を眺めようと脇道へ入ると、出口真上は都営の駐車場になっていた。

 急坂を下ると、「清水坂」と書かれた案内板がある。江戸を出た中山道の、最初の難所がこの下り坂なのだそうだ。ためになる案内板であるが、説明書きが車道を向いているので危なっかしくて仕方がない。

 清水坂を下ると、三田線の高架橋をくぐる。「新志村第一高架橋 泉岳寺起点18K980M」と板が貼ってある。目黒でも三田でもなく、「泉岳寺」起点なのである。そういえば浅草線の三田〜泉岳寺〜五反田付近は、当初三田線として計画されていたという話を聞いたような気もする。
三丁目の中学校
 小アパートや製本所の並ぶ、線路沿いの道を進む。開通時から変わっていないのではないかと思われる年季の入った高架下店舗が現れて、14時05分志村三丁目着。駅前にはパチンコ屋が3つも並び、木造の廃屋の壁には自民党と共産党と社民党のポスターが節操なくべたべたと貼られている。駅の地図によれば裏手には緑道が通じているはずだが、駐輪場に化けていて潤いは皆無。どうにもせせこましい駅である。

 まだ高島平団地には入っていないはずだが、駅前には都営アパートがずらりと並んでいる。背後の高台には真新しいマンションが聳え立ち、谷底のこの町を見下ろしている。中空にぐいっと突き出した奇怪な建物が線路と向かい合っている。よくよく見れば区立の中学校であった。建設当初は随分斬新なデザインだったのだろうが、どう見ても耐震性に不安がありそうだ。

 志村三丁目を出た三田線の高架は、右へほぼ90度急カーブをきる。それに合わせて路地を右に折れると、「蓮根駅前通り」と表示がある。三丁目駅がそこに見えているのに、早くも次駅の名が現れた。志村相生町交差点で、環八と直交。環八もこの辺まで来ると随分と田舎じみていて、片側2車線の道路は閑散としている。

 高架に沿った、薄暗い駅前通りを進む。線路下は資材置き場が延々と続いており、単調かつ殺伐とした道である。

 やがて三田線はガーダ橋を渡って駅前通りの西側へと移った。高架下に三丁目とよく似た店舗が現れ、マックやbook offといったお決まりのアイテムが並びだすと、蓮根駅はすぐそこであった。14時30分着。コンコースに一歩足をしるすと、くるりと僕は引き返して、個人経営の古本屋の隣というオニのような立地のbook offに入った。


(つづく)

2004.3.14
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