TOKYOちかてつWALKER・第11回
水香る街新宿線
東大島〜一之江(江戸川区)
新宿線は"意外と"便利だ。
小田急で新宿まで来ることはしばしばあったのだから、昔から愛用していても良かったはずなのだが、「都営地下鉄=不便」という固定観念でもあったのか子
供の頃はほとんど乗ることがなかった。使うようになったのは就職活動の頃からで、市ヶ谷辺りに出ようと思えばJRよりよほど速い。新宿の乗り場だって南口
からならそう遠くはなかった。近年は急行まで走り出した。
かくして新宿線がお気に入りとなった今日この頃ではあるが、乗るのは九段下・小川町・せいぜい馬喰横山までである。浜町の先でそれと気付かず隅田川をく
ぐれば、あとは未知の世界だ。
半蔵門線に乗りに住吉(江東区)まで行った時、新宿からのあまりの遠さに僕は「東京は広い」
と感想を漏らした。今日(2004年5月8日・土)はさらに先まで行く。古さのにじみ出てきた10-000系はトンネルを出て、13時17分、日差しのそ
そぐ東大島駅へ滑り込んだ。
東大島のホームは、旧中川の上に架かっている。さほど広くない川の両岸に、団地が立ち並んでいる。格子のはまった窓から、水の気配が流れ込んでくる。こ
の川が江東区と江戸川区の境界線である。
江戸川区側の改札を出ると、小さな広場と向き合って、リバーサイドなんたらと名付けられた真新しい団地が聳え立っている。緑豊かな公園、レンガの敷き詰
められた街路、1Fに鎮座するスーパーや医院。つくりものの真新しい匂いがする。東上線か西武池袋線の郊外団地みたいだ、となぜかそう思う。上福岡とか入間とか、どうもあの辺の雰囲気が漂っているように感じられる。
そんな団地の間をすり抜けると、前方に堤防が立ちはだかる。荒川である。先ほどの中川より明らかに大きく、何故こちらが区境にならないのか不思議だが、
河川改修の経緯とかいろいろあるのだろう。取り付けられた階段を登り、船堀橋へと出る。片側2車線、視界を遮るものの何もないあっけからんとした橋であ
る。通りの名は新大橋通、森下から東大島手前まで新宿線がその下を走ってきた道である。さらにさかのぼって中央区まで戻れば、日比谷線の回で歩いた八丁堀界隈へとたどり着く。
橋の上を、五月の風が爽やかに流れていく。マンションの隙間から地下鉄電車が顔を出した。トラス橋を渡る音が少し遠く響いてきた。
首都高速の高架橋が少しずつ近づいてきて、橋の真ん中に取り付いたインターチェンジ、という変わったつくりの船堀橋ランプを通り過ぎる。ここで眼下の流
れは荒川から中川へと変わる。旧中川を荒川に沿って改修した、という想像はつくが、さらに東側には旧江戸川と合流する新中川などと言う川もある。この辺り
の関係は全くもって理解できない。
一見荒川と区別のつかない中川であるが、船堀橋の雰囲気は変わった。両側にフェンスがそりたち、殺風景な印象がある。下流側の新宿線の橋梁も、トラスか
らコンクリートに変じた。風が、少し熱気を帯びる。黒ずんだ堤防の向こう、街並みは水面より低い。0m地帯だ。
橋のたもとへ降りれば、そこは鉄工所の脇だった。ついで葬儀場、健康ランドが現れ、塩素の匂いが漂ってくる。競艇場行のバスが、おっさんを満載してやっ
て来る。少しく古びてきた団地が立ち並ぶ。ダイエー、そしてセガのゲームセンター。揃うべきものが揃って13時55分、船堀駅前に到着。
船堀は江戸川区内で唯一急行が停まる駅で、なるほど駅前の活気は東大島と比べようもない。交差点の向こうに「タワーホール船堀」という公共施設があり、
医療センターやショッピングフロア、そしてその名の通り展望塔がある。江戸川区に展望タワーなんて作ってどうするんだ、と開いた口がふさがらない思いだ
が、高いところがお好きな性格なので登ってみようと思う。
エレベーターは乗り切れるのか心配になるほどの混雑を呈していたが、医療センターのフロアでほぼ全員降りてしまい、展望タワー入口の6Fだったか7F
だったかで降りたのは数人であった。タワーへは別のエレベーターに乗り換える。乗り場でコンパニオンの女性が微笑んでいる。エレベーターに乗り込めば、こ
こにも妙齢の女性。
…えーと、区営施設ですよね、ここ?
「年間○○万人(忘れた…)の方が訪れ〜」と、なんだか必死なエレベーターガールの案内を聞き流しながら展望フロアへ。ひょっとして誰もいないんじゃな
いかと期待、もとい心配しながらやってきたのだが、案外地元住民と思しき子供やカップルでにぎわっている。ディズニーシーから東京タワーまでぐるり一望。
しかしそれより、どこまでもどこまでも連なる住宅群に圧倒される。この果てなく続くこの平原に、一体どれだけの人間が居住しているのかと感嘆する。
ちなみにこのタワー、展望台につきものの双眼鏡は無い。周辺住民のプライバシーを配慮した結果らしい。だー
かーらー、住宅街のど真ん中に展望タワーなんて作ってどうするんだと。文京シビックセンター(丸ノ内線の回を参照)に対抗したわけでもあるまい(両方登ってしまった自分もちょっとどうかと
思う)。
タワーを降りて線路沿いの道を進む。新宿線開通以前から建っていそうな町工場があり、工場兼住居の入口には所狭しと鉢植えが並べられている。
やがて線路は高架から再び地下へともぐる。コンクリートの覆いに、ツタがびっしりと絡んでいる。線路の延長線上には、道路ではなく倉庫が立ちふさがって
いる。ここから先、新宿線は大通りではなく、住宅街の真下をマイペースとばかりに縦断する。
倉庫前を左に折れて、再び新大橋通へ。この辺りで地下鉄と交差するはずだが、と思い見渡すと、三島橋交差点の隅に換気塔が立っている。向かいには「一之
江境川親水公園」と大書した看板もあって、小川にそって柳並木が続いている。小道をちょっとだけたどってから住宅街へと足を踏み入れる。「第30××荘」
と、同じ名前のアパート群が両側にびっしりと立ち並んでいる。××さん、界隈では相当な大地主らしい。
小出しに宅地開発されたらしい一帯は、ちょっと歩いただけで街並みの雰囲気がくるくると変わる。洋風の建売住宅の向こう、畑の中を都バスが走ってきた。
手持ちの区分地図によれば、この辺りに「佐々木養魚場」なる施設があるらしい。それがいかにも江戸川区らしいように思えてこうして路地裏を彷徨っている
のであるが、その養魚場が一向に見つからない。ここだ!と思った一画にも何も無く、新大橋通へ戻ってしまう。振
り返ればそこに、真新しい東急ストア。時の流れは容赦が無い。
しかし地図には、他にもいくつか"らしき"池が載っている。新大橋通を越えて海側の住宅街へ入り、ユニクロの手前を折れてお寺の裏を抜けると、はたせる
かな、視界が広がって青緑色の養殖池が姿を現した。柵越しに覗き込めば、小さな金魚がゆらゆらと泳いでいる。この金魚が隅田川を越えて、浅草辺りの縁日で
金魚すくいに使われるのだろうか。
新大橋通をまたまた越えて、線路真上と思しき葛西工業高校裏の住宅街へと足を踏み入れる。区画整理と宅地開発の真っ最中で、四角形の3辺をたどるような
遠回りをしたかと思えば、同じデザインの住宅がびっしり並んだ街路に出くわしたりする。あちらこちらと迷ううち、環7にぶつかった。騒々しい通りを北へし
ばし、15時10分一之江駅前に到着。ここも駐輪場整備と駅入口移設の工事でごった返していた。
(つづく)
2004.5.30
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