神奈川外周気まぐれ!?列車(&バス)


▼第5回 松田駅(足柄上郡松田町) → 湯河原駅(足柄下郡湯河原町) 2007年3月17日(土)

 今回は本シリーズ屈指の早起きで、6時過ぎには家を出て相鉄線の海老名行に乗る。御殿場線なら国府津回り、と思っていたのだが、調べてみると海老名経由の方が早かった。遅い遅いと思っていた小田急線の面目躍如であるが、それならば前回は渋沢で打ち切ってもよかったのだと余計な事を考える。

松田−山北
(1)〈通算47〉 松田 7:23 → 山北 7:31
  JR東海 御殿場線 普通 [国府津→御殿場]
 駅前に 「マニラ食堂」というアヤシゲな物件を発見。フィリピン料理ではなく、和食と中華らしい。さすが松田、東京圏の衛星都市とは違うと妙な感心をする。

 松田から山北までは、JRと国道246号線が平行している。国道を走るバスの方が外周側だし本数も多く便利なのだが、ここを逃すとJR東海にお世話になる機会が無いので、鉄道利用とする。

 やって来たのは313系3両編成。出来立ての新車の匂いが車内に充満していた。ロングシートに座って快調に飛ばす車窓を眺めていると、通勤電車に揺られている気分になってくる。しかしここは御殿場線、1時間に1本しか運転されてない。東山北に着けば無人駅で、車掌は1人1人の切符を丁寧にチェックする。

 ロングシートとはいえ車内の造作はしっかりしていて、クッションは柔らかく蛍光灯にはカバーがついている。ここの所すっかり慣らされてしまったが、やはり東京の電車は貧弱なんだなあと痛感する。

山北−大雄山
(2) 山北駅 8:15 → 大雄山駅 8:31
  富士急湘南バス 山35系統 [山北駅→富士フィルム]
 山北で降りたのは初めてだが、駅舎といい駅前といい、古の街道筋にふさわしい雰囲気を備えている。今は深閑としてコンビニすらないが、代わりに雑貨屋的雰囲気を存分に発したKIOSKが開いていて、オバチャンが客を待っている。

 この辺りのバスの運行は富士急行から分社した富士急湘南バスが一手に担っている。それにしても山北、せいぜい小田原くらいにしか路線を持たないこの会社で「湘南」とは大きく出たものだ。「足柄バス」あたりが妥当なネーミングだと思うのだが、ナンバープレートは確かに湘南である。

 今日早起きしたのは、ここから乗る山35系統のせいである。平日は4本運転だが、土曜はわずか1本。休日は完全運休である。頼りないバスだが、外周の旅から山北町が外されなかったのはこのバスのおかげだ。

 いつしか雪が降り始めた。30分は待ってようやく来たバスに、勿論他の乗客はいない。運転手が同僚に、明日は早く来てチェーンを巻かなきゃと愚痴っている。

 定刻通り発車したバスは、制限高2.9mという際どい交差で御殿場線をくぐり、だらだらと家並みが続く県道を走る。5分程で岸バス停を通過。町内を循環するコミュニティバスでここまで先行する手もあったが、覆いも何も無い停留所で、雪の中待ちぼうけするのは辛そうであった。次の南原で、意外なことに乗客2名あり。

 酒匂川を越えると早くも南足柄市で、運動公園を経由するためにバスはしばらく路地を走る。県道に戻ると、峠越えも何も無く、いつの間にか市街地へと入った。

 さて下車地であるが、伊豆箱根鉄道は「大雄山駅」、箱根登山バスは「関本」と同じ地点で全く関係の無い名前をつけてお互い張り合っている。さて富士急はどうなるのかと思っていると、「次は大雄山駅」とアナウンスがあって関本バスターミナルの降車場に停まった。ちなみに乗り場はバスターミナルの外、駅改札正面にあるが「関本」を名乗っており、どうも良く分からない。

大雄山−井細田
(3) 大雄山 8:38 → 井細田 8:55
  伊豆箱根鉄道 大雄山線 各停 [大雄山→小田原]
 大雄山線は東京圏ギリギリを12分ヘッドで走る地味なローカル線だが、電車にはPASMOのヘッドマークが取り付けてある。パスネットには加盟していなかったのだが、ついに都市鉄道の仲間入りらしい。ただし提携クレジットカードの広告は荒川静香、つまり西武系のプリンスカードである。自社ブランドは無い様子だ。

 3両編成のうち、中間車はなんと転換クロスである。こんな短距離路線で、という気もするが空いているから勿論座る。大雄山線に乗るといつも感心するのは上下行き違いのタイミングの良さで、今日も3ヶ所全てで2列車が同時進入した。スジを引いてから駅を設置したんじゃないかと思う程の見事さである。

 小田原まで乗ってもいいのだが、小田急線をくぐって2つ目、井細田で下車した。

足柄−小田原
(4) 足柄 9:05 → 小田原 9:07
  小田急電鉄 小田原線 急行 [新宿→小田原]
 雪はや んだが空はどんよりと曇っている。午後に向け回復、という天気予報はどうなったのかと思う。

 何の変哲も無い住宅街の中を暫し歩き、小田急足柄駅へと向かう。駅舎は路地裏の目立たない立地で、しかも周囲には案内図も看板も無い。多摩線にはるひ野駅が開業するまで、足柄は小田急全駅の中で乗降客数最下位争いを常に展開していた。これでは当然だなと思う。

 タイミングよく5200系6連がやって来たので乗り込む。やたらと止められる印象がある小田原駅の場内信号を今日はあっさり通過して、新幹線の下をそうっとくぐり抜ければ小田原である。

小田原−箱根湯本
(5) 小田原 9:17 → 箱根湯本 9:34
  箱根登山鉄道 急行 [新宿→箱根湯本]
 小田原駅の構内放送は、先発のロマンスカーの特急券を熱心にPRしていた。小田急ロマンスカーは登山線内だけの利用はできなかったはずだが、いつの間にか改められたらしい。一旦改札を出て窓口を覗くと、観光客の長蛇の列ができている。フリーパス発売専用の臨時窓口だけがぽつんと空いていて、ここで登山電車・バス乗り放題の「天下の券」を購入。

 登山電車とは言っても、湯本までは小田急の車両での運転である。やって来たのは8000系未更新車。2台連続でVVVF車に当たらないのは、今の小田急では結構珍しく、ちょっと嬉しい。

 先頭に陣取ると、程なく登山電車の広軌の線路が合流する。小田原−湯本の運行が小田急車に統一されて既に久しく、レールは錆びていた。と言うより、既に半分以上の区間では撤去されていたのであった。もはや復活の芽は無いらしい。

 途中の風祭はホームが短く、小田急車は先頭車両のドアだけを非常コックで開く。久々に来てみれば、ホームは登山車3両分から大型車1両分へとさらに縮まっていた。もっとも、傍らでは新ホームを建設中で、どうもこの光景もまもなく見納めらしい。

 車両は変わっても登山鉄道である事に変わりはなく、断続的に急坂が続き、遮断機無しの踏切も多い。電車は40km/hを切るような速度でゆっくりと登る。 

箱根湯本−宮ノ下
(6) 箱根湯本 9:37 → 宮ノ下 10:02
  箱根登山鉄道 各停 [箱根湯本→強羅]
 強羅行の接続は良く、しかも嬉しい事に旧型車であった。車内は綺麗にリニューアルされ、いかにも観光電車の雰囲気である。乗るたびに混んでいる感のある登山電車だが、さすがにオフシーズンで2両編成でもなんとかなっている。勿論座れないが、運転席後をやすやすと確保。

 湯本駅を後にすると、「登れるもんなら登ってみろ」と小田急に挑戦状を叩き付けんばかりの急勾配が続く。ガコン、と運転手が勇ましくノッチオフ。トンネルを2つ3つとくぐるうち、再び雪がちらつきだした。見る間に勢いが増して、出山信号場でスイッチバックをする頃にはすっかり本降りとなった。

 模型のようなカーブを繰り返しながら、電車はぐいぐい登っていく。やはり登山電車は面白い。大平台で降りる予定だったが、もう1駅乗り越すことにした。3度目のスイッチバックに差し掛かる頃、木々の葉には雪が積もり始めた。今日ばかりは一眼レフを持ってくるべきだった、と臍をかむ。

宮ノ下−桃源台
(7) 宮ノ下 10:07 → 桃源台 10:33
  箱根登山バス [湯本駅→桃源台]
 宮ノ下駅を囲む森は、すっかり雪に覆われていた。狭い坂道を降りて国道1号線に立つと、バスはすぐにやって来た。箱根湯本(一部小田原始発)と桃源台・湖尻を結ぶこの路線は箱根町行と並ぶ登山バスのメイン系統で、10分間隔という山間地らしからぬ高頻度運転をしている。そんなに運転して客がいるのかと言えば、10人前後は乗っている。ううむ、さすが箱根。

 バスは箱根駅伝でおなじみの風景の中をしばらく走り、宮ノ下の集落を抜けると国道1号から分岐した。梢は白く凍てつき、川面からは湯気が立ち上る。対向 車線を下る車は、どれも屋根に雪を積もらせている。

 再び家が建て込み始めると宮城野である。こんな所に大きな集落があるとは知らなかった。宮城野やこの先の仙石は、箱根の中でも鉄道旅行者にとっては未知の領域である。

 箱根ガラスの森前でまとまった下車があり、以降こまめにバスは止まる。どこかで降りて観光しようかと迷っているうちに仙石案内所までたどり着き、車内は僕1人になってしまった。仙石の集落を抜けると、湿原の真っ只中をバスは真一文字に貫く。もっとも、積雪のある今日はただの雪野原にしか見えない。

 東映・IBMと名の知れた企業の保養所が次々と現れる中を、たった1人の客を乗せたバスは下っていく。ようやく芦ノ湖が姿を現して、桃源台着。

桃源台−箱根町
(8) 桃源台港 10:50 → 箱根町港 11:15
  箱根観光船 [芦ノ湖周遊]
 桃源台は箱根ロープウェイと観光船、路線バス、そして新宿からの高速バスが接続するターミナルである。ちなみに、そのどれもが小田急系である。ここまで乗ってきたバス路線図上、次の湖尻まで走って伊豆箱根鉄道のバスに接続する事になっているが、実のところ湖尻行は早朝だけであり、バスを降りたお客は自動的に船に乗り換えるシステムになっている。

 湖尻まで歩いてバスの旅を続けてもいいのだが、変化をつける意味でもここは船に乗ろうと思う。ロープウェイのリニューアル工事に合わせてターミナルビルは建て替え中で、切符売場も手洗いもプレハブなのはわびしいが、幸い船はすぐやって来た。

 小田急系の箱根観光船は海賊船を模したデザインで、伊豆箱根鉄道の大人しいデザインの船を差し置いて芦ノ湖の主として君臨している。団体客が2組、そして個人客も随分乗り込む。本当にオフシーズンだろうか。上部甲板が折り返しの間に手早く清掃され開放された。

 海賊船に乗るのは実に24年振りである。勿論同じ船ではないだろう。港の脇の岸辺には難破船が打ち上げられたかのごとく、別の海賊船が鎮座している。3日後にデビューすると言う新型船だろう。ああいうのはどこから運び込んでくるのだろうか。一から芦ノ湖で組み立てているのだろうか。

 雪は止んだが恐ろしく寒い。しかし乗客は全員観光客であるから、船室の外に出て熱心に風景を眺めている。すぐ前を伊豆箱根の船が航行していたが、すっと左にそれて箱根園に立ち寄る。こちらは箱根町までノンストップである。船内放送は伊豆箱根のロープウェイが通じる駒ケ岳を案内せずに、麓に食いついた小田急山のホテルを2ヶ国語でPRする。小田急と西武の争いなんて昔の話だと思っていたが、現地ではそうとも言えないようだ。

箱根町−湯河原
(9)〈通算55〉 箱根町 12:58 → 湯河原駅 13:55
  箱根登山バス [元箱根港→湯河原駅]
 リニューアルされたばかりの箱根関所跡(箱根関所と言えば生首、と思っているのは僕だけだろうか)を巡ってから、湯河原までバスで出る。

 湯河原へのバスは、箱根峠を越えて湯河原パークウェイを下る便と大観山へ上り椿ラインを下る2種類がある。前者の方が外周ルートに見えるのだが、途中2kmほど静岡県函南町にはみ出すのでこれはアウト。大観山経由のバスは1時間に1本運転されている。お客さんは数えるほどだ。

 芦ノ湖から大観山へ登る道は、何度か車で通った事がある。伊豆に行くにせよ箱根に行くにせよ、我が家はなぜか箱根ターンパイク(現・TOYO TIRESターンパイク)を使うのである。しかし大観山の読みが「たいかんざん」で、横山大観に由来するとは知らなかった。家族一同「だいかんざん」だと思っていた。こういう事はバスの案内放送でも聞かないと分からないものである。

 登るにつれて霧が濃くなったが、委細構わずバスは走り続ける。やがてターンパイクから椿ラインへと入り、くねくねと急坂を下っていく。どこまでもどこまでもカーブが続き、眠たくなってきた。

 気がつくとバスは、奥湯河原温泉まで下っていた。温泉街で何人かのお客さんを乗せ、それから案外長いこと走って湯河原駅に到着する。空は綺麗に晴れていた。

 ぐるっと神奈川県を半周して、とうとう相模灘までたどり着いた。まだお昼過ぎ、横浜方面へ戻るのだからそのまま旅を続けられそうにも見えるのだが、本日はここで打ち切りとなる。次回も早起きだ。


(つづく)

2007.4.14
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