今度の旅はレアバスで・第17回



市役所へ行こう!

座間市コミュニティバス さがみ野コース・相模が丘コース
東原コミュニティセンター→座間市役所→北地区文化センター




座間市役所にて
 コミュニティバスという乗り物が、どうやら流行っているらしい。小田急電鉄ホームページの「乗り換え交通機関情報」によれば、沿線では多摩市・町田市など5つの自治体がバスを運行している(川崎市の栗平駅に乗り入れる稲城市循環バスを含む)し、この他に少なくとも海老名市でその存在が確認されている。

 今回はその中から、座間市のコミュニティバスに乗ってみる。小田急線からも相鉄線からも離れた市役所への足として試験運行(H16.11〜H19.10)されているのだが、運転本数はわずか4往復(年末年始運休)である。


 2005年11月19日(土)、相鉄線のさがみ野駅北口に降り立つ。バスロータリーには近隣の鉄道駅へ向かう神奈中や相鉄バスの乗り場があるが、コミュニティバスの乗り場は見当たらない。駅前通りを真っ直ぐ進むと、コンビニの先で変形したX字路を超える。ここが海老名市と座間市の境で、道路の幅が倍以上に広がって桜の老木がずっと続いている。コミュニティバスのさがみ野駅入口バス停のポールは、この並木道にひっそりと建っていた。駅まで乗り入れないのは、バス会社に対する遠慮か、はたまた他市へ乗り入れることへの抵抗感か。

 ほどなく背後の交差点から、黄緑色のマイクロバスが現れた。このバスが折り返し13時30分発の座間市役所行になるのだろう。まだ時間はあるので、始発の東原コミュニティセンターまで歩こう。さがみ野からはバス停1つ分、しかも市のホームページによれば両バス停の発車時刻はどちらも13時30分だ。目と鼻の先である。

 東原コミュニティセンターは市の南出張所が併設された立派な建物で、何かイベントがあるのか子供達が行き来して活気がある。玄関前には高そうな自転車がずらりと並んでいた。先ほど見かけたマイクロバスが、駐車場で秋の陽を一身に浴びている。「キャンプ座間の米陸軍司令部強化反対」と何箇所にもステッカーが貼ってあり、さすが座間市だ。

 休憩中の運転手に「乗っても良いですか?」と声を掛けて無人の車内に入る。(株)南東京観光バスのマイクロバスで、座席は10人分、後半分は車椅子スペースになっている。運賃は前払い100円均一。もちろんバスカードは使えず、田舎の神社の賽銭箱に似た、小さな銀箱が運転席後に置いてある。

 13時30分ちょうど、運転手が乗り込んできて「どちらまで?」と問いかけながらバスを発進させた。「福祉センター以外のバス停でお降りの方は乗務員にお声がけ下さい」と掲示が出ている。車内放送は一切流れず、降車ボタンも無いのだ。

 桜並木道をしばし戻り、さがみ野駅入口でお婆さんが1人乗り込む。「やぁー。初めて、これ」「うん、いつもの車、点検に出しててね。」と 仲睦まじく声が交わされる。このバス、今日はどうやら代車らしい。お婆さんと運転手のナチュラルトークはまだ続いている。「この前代わりの人だったじゃない?京都行ったって?」「うわー、よく知ってるなァ…」 まるきり田舎のバスである。

 バスは海老名市境のX字路を右折し、相鉄線の踏切手前で再度右折する。バスにはちょっと厳しい、泉麻人氏を乗せたら大喜びしそうな狭隘路である。さがみ野一丁目で親娘と思しき2人連れが乗車、県道42号線にぶつかると左折するが、大塚本町の踏切手前で右折、線路沿いを進むとかしわ台駅入口に至る。線路の向こうに小さな東口駅舎(旧・大塚本町駅。ここからホームまでは連絡通路を300m以上歩かされる)が見えるが、バスはプイと右折してしまう。線路の向こう、海老名市域には断じて踏み込むつもりが無いらしい。

 それにしても、右折した先の道の細さはどうだろう。どう考えてもバス通りではない、ただの路地である。真っ赤な祠の先をかすめ、急カーブの坂道をきりきりと下っていく。谷底まで降りると小さな角を折れ、今度は登りに。交通不便の地をカバーするのがコミュニティバスの使命ではあるけれど、いやはや凄いルート取りである。わざと細い道を選んでるんじゃないかと言う気さえしてくる。

 林と住宅の混じる南栗原地区をようやく抜けると県道42号線に合流し、堂々たる太さの国道246号線を横切る。200mも進まないうちに再び左折し狭隘路に突っ込む。崩れかけた塚が車窓をかすめる。今度は立野台と言う住宅街らしい。南栗原に比べると街路は真っ直ぐだが、自転車と軽自動車しか乗り入れてはならぬような細い道である。

 ぱっと視界が開け、左の崖下に小学校がある。土曜だと言うのに子供達でいっぱいだ。家並みの向こう、すっかりこの辺りのランドマークになった海老名の高層ホテルが見える。常連のお婆さんはここで下車した。

 バスは右へ向きを変えると、真っ直ぐ坂を登る。ようやくセンターラインのある道路にぶつかり、ここを左折。しかし次のスーパーの角を早くも右折、別の住宅街に突っ込む。住居表示は入谷に変わった。新旧入り混じった住宅街の中、信号も何も無い曲がり角を小刻みに右に左に折れていく。これはルートを覚えるのが大変だ。今日の運転手さんは通い慣れた道なのだろうが、京都旅行中に代理を務めたドライバーは大汗をかいたに違いない。

 住宅街を一巡したところで、小道は県道42号線に突き当たる。ここは右折。今日何度目かの42号線だが、先ほど国道を渡った時とは走る方向が逆になっている。左手に谷戸山公園の緑を眺めるうち、周囲がにわかに新興地然としてきた。2F建てのワンルームアパートが続々と現れる。

 やがて現れた信号を左折すると、前方に周囲を威圧するかのような太っちょのビルが見えてくる。米軍強化反対の大看板とダカーポコンサートの小さな告知の前に右折すると、バスは座間市役所正面ロータリーへと入った。13時55分、定刻より5分遅れて終着。右に左に揺られて25分、座間市南半の全住宅街を制覇したような、無駄な充実感を覚える。

 タクシーと共用のバスロータリーも、目の前の市役所も、土曜日の今日は静まり返っている。向かい側にはハーモニーホールという、人口10万ちょっとの町が持つには立派過ぎるコンサートホールが鎮座している。今日はロシア人ピアニストのリサイタルがあるらしく、当日引換を待つオバチャン達の長い列が伸びている。

 ところでコミュニティバスはと言えば、14時ちょうどに今度は北地区文化センター行として出発する。市内を南端から北端までほぼ休み無く走り回っている訳で、4往復と言う本数は1台で運行できるギリギリの設定なのだろう。もう1度運転手に声を掛けて乗り込む。他に利用客の現れないまま、バスはゆっくりと動き始めた。

 左折で表通りに出たバスはすぐに左折、さらに1度左折して広大な座間市役所の敷地外周を辿る。最初の角、右折したほうが良かったんじゃないかと思いだした頃にようやく住宅街へと突っ込んでいく。向こう正面、低い家並みの果てに古びたビルが遠望できる。小田急線相武台前駅併設のマンションで、このバスはまさにその相武台前を経由するのだが、すんなりたどり着きはしないだろうなあと思う。

 案の定バスは右手の路地に突っ込み、緑ヶ丘の住宅街を道に迷ったかのように右往左往する。道幅はますます狭まり、マイクロバスはおろかRV車でも一発で曲がるには技術を要するような路地に次々と分け入っていく。昭和30年代風の古びた商店が角に現れた。バスはウインカーを出しながら、軒先に触れんばかりにぐぐっと車体を寄せる。狭い店内が車内から全部見渡せた。

北地区センター付近にて そんな道がしばらく続いた後、バスは唐突に路地から商店街の真ん中へと躍り出た。正面に相武台前駅南口の階段が見える。南口はバスの折り返しスペースが無く、神奈中や相鉄バスはここでお客さんを降ろした後踏切を渡って北口まで行くのが常なのだが、わがコミュニティバスはそんなメインルートは辿らず、線路沿いに伸びる裏道へと踏み入る。相模原市が近接する北口には、断じて行くつもりは無いのだ。側線の向こう、小田急3000系下り各停が夕陽にきらきら輝きながら入線してきた。

 相武台前から先の道は、センターラインが引かれたり無くなったりと整備状況が一定していなかったが、これまでの路地に比べるとずっとまともであった。もうマニアックなルートはこりごりだとばかり、バスは一本道を快走する。

 広野台で初めて歩道橋をくぐり、県道を越えると快適な一本道はおしまい。バスはクランク上にカーブを繰り返してまたしても住宅街へと踏み入る。やがて沿道に商店が増し、バスは街道の雰囲気を漂わせた表通りへと入った。家並みから一段引っ込んで公民館然とした建物が見えてきて、14時18分北地区文化センター着。

 たった1人の客を降ろしたバスは、もうひとふん張りとばかり、地区センター駐車場への脇道へ入っていく。ここもまた、車体幅ギリギリの路地であった。


(つづく)



2006.1.14
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