四半世紀後の2万キロ・第7章


路線名
都道府県
現在 の運営会社
宮脇氏の乗車日
tko.mの乗車日
美幸線
北海道
廃止
1976.6.21
未乗
興浜北線
北海道
廃止
1976.6.21
未乗
興浜南線
北海道
廃止
1976.6.21
未乗
名寄本線
北海道
廃止
1976.6.21
未乗
渚滑線
北海道
廃止
1976.6.22
未乗
歌志内線
北海道
廃止
1976.6.22
未乗
「上砂川線」
北海道
廃止
1976.6.22
未乗
万字線
北海道
廃止
1976.6.22
未乗


 「廃止」と「未乗」の文字がずらりと並ぶ。第7章はさながら墓標だ。取り上げられた8線の内、7線は国鉄改革の嵐の中消え去った。函館本線の枝線だったゆえ特定地方交通線の網から外れた上砂川線も、民営化後その運命を共にした。少ない運転本数の中、宮脇氏が必死で乗り継ぎ案を作成した苦労も、内地では決して味わえない雄大な車窓も、すでに過去のものとなってしまった。

 こうなると書き手たる当方としては、困る。いつものマンネリな乗車記が書けないのである。乗った事がないばかりか、沿線にもほとんど縁がない。国鉄改革に弁舌を振るえるほどの頭脳は到底持ち合わせてはいない。この章には"あの"札幌連れ込み宿顛末記が含まれているのだが、そっち方面もさっぱり疎いのでやはり何も書けない。

 困ったので、数年前にさる俳句会の句集に寄稿した北海道旅行記を転載しようと思う。寄稿したのはだいぶ昔だが、肝心の句集は昨日やっと発刊された。何年も編集をサボったダメ幹事は、他でもない僕である。

***
美瑛の丘

  この雨で秋めくものと土地の人

 一九九九年の夏の終わり。恐怖の大王は降りてこなかったがその代わり四年ぶりに訪れた北海道は記録的な猛暑に見舞われていた。降水確率七十%の天気予報に期待したユースホステルのご主人を裏切り、翌日も美瑛は快晴猛暑であった。

 パッチワークの丘をあわただしく巡り、旭川の駅に立ったのは十二時半頃であった。今日の目的地稚内へはここから急行「宗谷」号で四時間の道のりである。

 しかし「宗谷」は普通電車の故障をうけて遅れた。旭川には一時間近く遅れて到着、そのあとは駅ごとに対向列車待ちあわせの長時間停車が続いた。

 まどろむうちに、いつしか空は暗くなっていた。カン、カン…天井を何かがたたく音がして、次の瞬間それはものすごい豪雨になった。駅が現れ、列車は止まった。対向列車待ちのため停車時間は二十五分、と車掌が告げた。

 宿に連絡をとった方がいいのだが、私の持っているPHSは圏外である。それでも何とかつながらないものかと、ディスプレイを眺めながら車内を移動していると、同じ仕草をしている女性とすれ違う。三十代ぐらいの、ちょっと影のあるような人である。

「電話、つながらないのですか」

「ええ、駅前に電話あるんですけど扉が閉まってて…」

 雨が吹き込むため閉まっていたドアを開けてもらい、砂利のホームを歩く。小さな待合室の中で私は彼女の電話が終わるのを待った。

 雨は相変わらず激しく降っていて、駅頭には誰もいなかった。待合室で上り列車を待っている数人の客と電話ボックスの女性。この街にはそれだけの人しかい ないのだろうか。

急行宗谷 「ピピーッ、ピピーッ」

 テレホンカードが出てくる音が少し大きく聞こえ、入れ代わりに私は稚内にダイヤルした。

「…ああ、それは大変ですね。今、どこですか。」

「天塩中川という所です。」

 古びた駅の看板を見上げてそう口にしたとき、旅の実感が妙に胸に込み上げた。

 上り列車は、豪雨にもかかわらず定刻に到着した。カラカラ…と軽い響きを奏でていた「宗谷」のエンジンが待ちかねたように唸りを上げ、町並みは後方へと去っていった。一時間四十分の遅れ。しかしもうそんなことを気にしている乗客はいそうになかった。狭い車内にぱらぱらと座っている乗客の間には倦怠と諦観と、そしてなんとはなしの連帯感が漂ってきたように私には思えた。

 原野とも牧草地とも区別のつかぬ草原の中を、列車はひたすら走った。雨は止む気配をまったく見せなかった。時折稲妻の光る草原は、あたかもこの世の原風景を旅人に見せているかのようであった。日々暮らす都会とも、そして今朝旅立った美瑛とさえもまったく別の時間が、そこには確かに流れていた。

  秋を告ぐ嵐くぐりて旅遥か

 ドドドド…。単調なエンジン音が車内に響いている。稚内まではあと一時間半かかる。


***

 その後「宗谷」は新型特急に置き換えられ、PHSはカメラ付携帯へ代替わりした。昔も、そして今も、時は無常に流れていく。しかし北国の茫漠とした大地だけは、未だそこにある。美幸線や名寄本線がかつて通っていた地にも、きっとあるのだ。


(つづく)

2004.6.27
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