完乗へのファイナルラン 


−  2008.3.9朝現在  未乗線区数 15本   残存距離 248.6km  −

▼ 第3回 近畿地方(2008.3.9-10)

 乗りつぶしに負けず劣らず、ここ数年趣味と言える程度にハマリ出してきたのが、ライヴめぐりである。大抵は東京近辺の会場へ赴くが、幸か不幸か大の旅行好き、地方公演であっても全く構わない。これまでに何度か、そんな一挙両得(または虻蜂取らず)な旅もしてきた。

 最前列までじっと座って聴き入るようなシンフォニックなコンサートからアイドルライヴまで実に雑食ゆえ、ファンクラブに入ってはいない。早朝からチケットぴあに並ぶのも嫌なので、どうしても手配はネット頼みになる。発売初日の午前10時にPCにかじりつくが、そんなやり方ではそうそう席が取れるものではない。

 とは言え、発売開始から5秒でSOLD OUTってのは、ちょっとやりすぎなのではと思う。茅原実里、人気の急伸っぷりに会場のキャパシティが追いついていないのではとかねてから思っていたが、追加公演を組んでもこの有様である。いやはや恐るべし。

 仕方が無いか、と諦めつつPCを閉じようとした時、驚愕の情報が目に飛び込んできた。−大阪公演なら、まだ空いている。半ば反射的に手が動いた。

 さあ楽しくなってきた。ライヴもさることながら、大阪圏には未乗線区が多々残っている。1泊2日の日程を組んで一息に、とカレンダーを見上げて、そこで嫌な予感がした。おおさか東線の開通は…ライヴの直後、3/15であった。

 なんて事だと頭を抱えたが、茅原実里がおおさか東線に合わせて日程を組む訳は無いので、どうしようもない。ならば完乗は次の機会に、と兵庫県内だけを片付けるプランを作成した。周囲に「大阪へ行きます」と語ったら、「『銀河』に乗ってくるの?」と一斉に尋ねられたが、勿論寝台券は取れなかった。

***

 そんなわけで3月9日(日)、羽田空港9時25分発のスカイマークに飛び乗った。世間的な標準がどの辺りか知らないが、僕の場合本州内ならば鉄道利用が当たり前である。関西まで飛行機、なんて贅沢は普通しないのだが、神戸新交通ポートアイランド線ことポートライナー(参考記録)が未乗で残っている以上、一度は神戸空港を使ってみねばなるまい。

 羽田を轟然と離陸した小型ジェットは、さすがに速くあっという間に近畿上空に達する。左窓には大阪市街、その向こうに大阪湾。六甲アイランド・ポートアイランドを遠望し…あれあれ、神戸空港を過ぎてしまった。岡山まで飛びそうな雰囲気で西へ西へと景色は移ろっていく。ようやく左旋回したのは、加古川上空辺りだったろうか。明石市の子午線塔を左手に見て、マニアが喜びそうな低空で明石海峡大橋上空を通過するとようやく着陸。いやはや、難儀な場所に作ったものである。

 都市規模に比べればビックリするほど小さなターミナルビルから橋を渡ると、ポートライナーの駅がある。折角の無人運転だからと先頭車のドア前に並ぶと、やって来た列車の前面にはイベント告知のラッピングが貼ってある。景観台無しである。

 11時神戸空港発。辺りは無残なまでの空地で、神戸市の財政、酷い事になっているのではと他人事ながら心配になる。長い長い連絡橋を渡り、3つ目の市民広場で既存線と合流、途端に駅のつくりが堅牢になる。新交通らしき軽快さはなく、一般鉄道の駅のようだ。日本初の新交通システムとしてのプライドを垣間見た思いがした。

山電網干線  三宮の乗換え通路を早歩きして、11時22分発のJR神戸線新快速に飛び乗る。さすが新快速で、うつらうつらしているともう姫路である。ちょっと前まで新快速はほぼ全部姫路止まりで、多彩を極める東側の行先とは好対照を成していたが、この電車は播州赤穂まで行く。2つ先の網干で下車。

 網干までやって来たのは、山陽電鉄網干線に乗るためである。すぐ近くの姫路までは何度も来たし、泊まった事さえあるのだが、いつも時刻が折り合わず見送ってきた路線である。ひょっとしたらコイツが最後の1線になるのではとも思っていたが、どうにかスケジュールに組み込めた。単純往復はつまらないのでJR網干駅まで来たが、山電駅との間を結ぶバスは2時間に1本、わずか10分の接続で中々に際どい。

 さしたる集客施設も見当たらない駅前だが、バス乗り場には列が出来ていた。もっとも、これは梅園行の臨時バスを待つお客さんで、山電網干駅行の神姫バスに乗ったのはほんの数人である。地図を見る限り両駅の間は一本道だが、このバスは工場街に突っ込んだり路地を折れたり旧家の連なる一角を抜けたりと随分回り道をした。

 それでも山電網干駅までは15分弱である。商店や銀行が建ち並び、こちらが網干の中心らしい。もっとも山陽電鉄がJRより偉いわけではなく、往来の激しい国道がすぐ脇を抜けているせいだろう。ドライブスルー併設のマックで昼食、13時16分発の普通電車に乗る。山陽電鉄といえばこの顔、という感の旧型車だが肝心の車窓はどうという事はなく、13時30分飾磨着。

 5分ほど待って、阪神梅田行の直通特急に乗る。マイナー感漂う山陽電鉄だが、さすがに看板列車で飛ばしに飛ばす。飾磨から最寄の未乗線区はJR加古川線だが、今日はスルーして神戸市街を抜け、14時39分魚崎着。神戸新交通六甲アイランド線(六甲ライナー/参考記録)に乗り換える。

 六甲ライナーはJR神戸線の住吉と六甲アイランドを直線状に結ぶ新交通だが、はっきり言って関東人には影が薄い乗り物である。ぼんやりと車窓を眺めるばかりだが、妙に見通しが悪い。窓ガラスが白濁しているのである。あれれ、と思っていると次の南魚崎駅に滑り込み、視界がクリアになる。見れば、「瞬間くもりガラス」とステッカーが貼ってある。沿線のマンションののぞきこみ防止なのか。妙な発明もあったものである。

 阪神高速の見事な橋梁の下をくぐると、こちらも海を渡って六甲アイランドに入る。今度はガラスは曇らない。新交通の方が「先住者」だからなのだろう。どん詰まりまで走ると終着マリンパーク。もうちょっとひねった駅名には出来なかったのか。

 駅構内の地図を見ると、六甲アイランドは外周が工業地帯で、グリーンベルトに囲まれた中心部にマンションが立ち並んでいる。整然とした都市設計だが、海べりを住宅にしたほうが売れたんじゃないかという気はする。マリンパーク駅から目に付くのはプールと学校ばかりで、冬場の休日である今日は不気味なほど人がいない。

 10分ほど駅前を眺めて折り返す。車内で若いサラリーマンが眠りこけている。アイランドセンター辺りのオフィスに行くつもりで乗り過ごしたのだろうか。起こしてあげようかとも思ったが、疲労困憊の風があったので止めておく。

 たびたび曇るガラスを眺めるうちに、魚崎を通り過ぎ住吉着。件のサラリーマンはまだ寝ている。改札口前の売店スペースには金券ショップが入り、JR線の切符を堂々と安売りしている。第3セクターの施設内で売りさばくのだからさすが関西だが(しかしさすがに、六甲ライナーの切符は扱っていない)、小心者の僕は券売機に並び、快速電車で大阪に向かった。駅至近のホテルに投宿し、難波の茅原実里ライヴ会場へ。おおさか東線の事などきっぱり忘れさせる、熱狂の一夜を過ごした。

***

  翌3月10日は月曜日である。ホテルから阪急梅田駅に向かう地下道には、濁流の如く人が押し寄せている。隅っこの方を逆送して、8時38分発の通勤特急新開地行(後2両西宮北口止まり)の車端に着席。輸送量の減少が伝えられる関西私鉄とは言え、この時間だから3複線を上ってくる電車は皆ぎっしり満員である。ガラガラのこちらとしては、優越感に浸ったものか、仕事を休んで申し訳ないと縮こまったものか。

 ともあれ8時48分塚口着。今日最初の未乗線区は阪急伊丹線である。乗り場は神戸線上りホームと接しているが、本線から分岐する急カーブの途中にあるので伊丹寄りではやたらと幅が広くなっている。さらりと席が埋まった電車はカーブを曲がりきると、複線になって速度を上げた。両側に狭い道が並行し、その向こうには落ち着いた住宅街が広がる。小田急江ノ島線の鶴間付近を連想させる、要するに平々凡々とした都市近郊の眺めだ。

 やがて線路は高架に上がり、8時56分伊丹着。改札口を出ると、小奇麗なショッピングセンターの中央に出る。真新しく気持ちのいい駅だが、前駅舎が地震で倒壊したためだと言う経緯は忘れてはならないだろう。バスターミナルは駅の正面と右側の2ヶ所に別れている。正面の広場は旧駅の跡地と思われた。

 折り返し塚口に9時13分着、神戸線の通勤特急に乗り継ぐ。奇奇怪怪と素人を寄せ付けない阪急の列車種別だが、通勤特急は塚口にも次の目的地の夙川にも停まる、乗りつぶしのためにあるかのような列車だ。もっとも、普通列車を見送ってまで乗ったのに、通過するのは武庫之庄1駅だけである。

 夙川から分岐するのが阪急甲陽線で、距離はわずか2.2km。2006年に上越線(新幹線)越後湯沢−ガーラ湯沢を乗りつぶして以降、未乗全線区中最短距離の座に君臨し続けるミニ路線である。伊丹線が江ノ島線なら、こちらはさしずめ西武豊島線だ。

光陽園、もとい甲陽園駅  甲陽線のホームは伊丹線の塚口と同様、神戸線上りホームに接している。しかしその角度たるや、急カーブを通り越して完全に直角である。本線との接続線路は別にあって、ホームの裏手に無理なカーブが伸びている。10分間隔で待ち時間は9分。我が道を行くといった風情でわずか3両の電車が客を待っている。

 9時36分夙川発。次の苦楽園口で上り電車と交換し、公園の片隅を通過してカーブを切るとにわかに山の気配が漂い始める。前方に切り立った山肌が迫ってきた。正確には、山肌に建った住宅群の壁が徐々に迫ってくる。もうこれ以上は登れません、と平地の末端で電車は停まった。9時41分甲陽園着。これで阪急電車は全線完乗である。同時に大手私鉄も完乗したのだが、迂闊な事に帰宅するまで気が付かなかった。

 ちなみにこの甲陽園、昨日ライヴに行った茅原実里がブレイクするきっかけとなった某作品の舞台でもある。狙ってやって来た訳ではなく、奇縁と言えば奇縁だ。散策するうちに道に迷ってしまったが、周囲がとんでもない高級住宅街である事は理解した。

 夙川に戻って特急に揺られ、10時27分三宮着。神戸市営地下鉄(神戸市交通局山手線・西神線・西神延長線)の西神中央行に乗り換える。関西の電車は物 持ちが良く、やって来た緑色の電車は僕が小学生の頃から知っていたデザインである。小田急9000系に似ているとかねがね思っていたが、「本家」はとっくにスクラップされてしまった。

 この路線、都心部では他の鉄道とルートが重複して影が薄く、郊外に出ればサッパリ土地勘の湧かない駅名のオンパレードで余所者を実に惑わす。名谷(まずこの駅からして読めない)を出て車庫を見下ろすと、以降はニュータウン風景とトンネルの壁が交互に現れる。伊川谷辺りまで来ると、ここが本当に神戸なのか自信がなくなってくる。

 11時06分西神中央着。これでもか、と言わんばかりの広大な駅前広場にバスがずらりと並んでいる。緑色の市営バスが多いが、僕は一昔前の京王バスを髣髴とさせる、橙色の神姫バスに乗った。15分発の三木営業所行である。

 駅前広場を左に出たバスは、最初こそニュータウンらしい立派な街路を進んだが、すぐにT字路に突き当たる。いや、よく見ると正面には田舎道然とした細い道が続いている。この道に分け入って右に左にカーブを切りながら坂を下りると、あっという間に辺りは田んぼが広がるばかりとなった。なんだか千葉ニュータウンの裏側みたいである。全国似たような景色ばかりと言うことか。

 産廃処分場の脇をすり抜け、小さな峠越えを経てもなお、バスは神戸市内である。どれだけでかいのか、と呆れているとようやく三木市に入り、三木中町で下車。西神中央から30分程度で、「抜け道」としては中々に面白かった。旧市街を歩くことしばし、三木鉄道三木駅に突き当たる。

 三木鉄道は8年ほど前に乗った事がある。あの頃は新車が入ったばかりで意気軒昂だったのだが、結局命脈は尽きたらしく、今月末で廃線になる。待合室には長机が据え付けられ、廃線記念のDVDが垂れ流されている。客はいない。待ち時間は30分以上、駅間距離の短い鉄道だから隣の駅から乗ろうと住宅街を歩いていると、2つ先の別所駅まで来てしまった。これでも時間が余るので、近くのスーパーで弁当を買って昼食。

 レールバスの車内にはファンもちらほら見受けられたが、月曜の昼間ではさすがに悠々と座れてしまう。12時50分厄神着。JR加古川線の普通列車西脇市行がすぐにやって来た。

 加古川線の始発駅、加古川は神戸・大阪への通勤が充分可能な立地で、新快速や快速が山ほど走っている。加古川線も近年電化され、アーバンネットワーク外縁の近郊路線として活況を呈している…と思いきや、厄神以遠は1時間に1本しか電車が来ない。しかも月イチの工事運休まであり、まるきりローカル線の扱いだ。もっとも、単行電車の車内はぎっしり混んでいた。僕が抱いていたイメージよりはローカルだが、JR西日本が思っているほどローカルではない、と言ったところなのだろうか。

 車中からは加古川の流れが時折望まれる。思いのほか鄙びているが、乗客には出張らしきサラリーマンの姿もあり、やはり地方路線とは一味違う。粟生辺りまではもう少しテコ入れをしてもいいような気がする。終点西脇市に着いた時点でも、座席は半分埋まっていた。
加古川線
 西脇市では、隣に停車した谷川行に乗り換える。同じ加古川線でもここからは本気のローカル線で、この電車の前は3時間以上も開いている。市街地を川向こうに眺める新西脇でまとまった乗客があり座席は殆ど埋まったが、山肌に沿ったカーブには25km/h制限の標識が立っている。「保線は手抜きなので、運転士が自分で徐行して確かめてね」といういかにもJR西日本的な措置で、コイツに出くわすと田舎に来た実感に浸ると共に、どうにも情けなくなってくる。

 正直どうという事も無い田園風景の中を淡々と走り、14時09分谷川着。これで今回のミッションはコンプリートである。加古川線らしく、と言うべきか大阪方面との接続は考慮になく、乗換え客や地元のおばちゃんと一緒に待合室のTVをぼんやりと眺める。織田裕二が異様に若い。

 もはや突っ込む気も起きないえげつないデザインの113系改造電車で篠山口へ下り、丹波路快速に乗り継ぐ。尼崎を過ぎると東海道線(JR神戸線)と並行するが、考えてみれば今回の行程、ルートが重複するのは尼崎−大阪と自宅付近のみである。随分右往左往としたが、マニアックなルート取りをしたものと改めて呆れた。


*今回の乗車路線*

会社名
路線名
区間
距離
1
西日本旅客鉄道
加古川線
厄神−谷川
41.1km
2
阪急電鉄
伊丹線
全線
3.1km
3
甲陽線
全線
2.2km
4
山陽電気鉄道
網干線
全線
8.5km
5
神戸市交通局
山手線
三宮−新長田
6.3km
6
西神線
全線
5.7km
7
西神延伸線
全線
9.4km
参考
神戸新交通
ポートアイランド線
市民広場−神戸空港
(4.4km)
参考
六甲アイランド線
全線
(4.5km)

−  2008.3.10夜現在  未乗線区数 8本   残存距離 172.3km  −

(つづく)

2008.7.27
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