ロンドン6日間・大特急 〜前編

ロンドン市内
  旅支度 整えし夜の つづれさせ
 
 つづれさせとはこおろぎのことである。旅行前夜に会社で句会があり、この句を出したところ先生から高い評価を頂いた。が、実はこの句ちょっとウソが入っていて、旅行の準備はその時点でほとんど整っていなかったのである。会で一献して11時前に帰宅して、それから旅支度の忙しいことといったら無かった。全くもってこおろぎに耳を傾けている場合ではないのだ。
 

▼ 2000年9月22日(金) 世界の言葉、マクドナルド

 本厚木で4両空車増結する小田急で、8時27分新宿着。ラッシュの車内でのスーツケースは、小型とはいえ相当邪魔である。善良なジャパニーズびじねすまんの皆様、ごめんなさい、と優越感?を感じつつホームに立つ。両脇を男性にがっちりつかまれたおばさんがいる。スリ現行犯の連行だろうか、と思っているといきなり金切り声を上げるので周りが騒然とする。のっけから波乱の旅立ちである。

 山手線が巣鴨か駒込に着いたところで、同行するひさめ氏から日暮里に着いたぞと電話がある。しかし、集合場所の日暮里駅京成改札に高橋源一郎似の男の姿はない。まさかと思いつつ電話を掛けると、果たして別の改札口にいる。

 スカイライナーで第1ターミナルへ。なぜか手荷物検査(X線)を2度も受けて航空券を入手する。それにしても第1ターミナルは綺麗に改装された。清潔感がそこここに漂っている。しかしあの黒い格子状の天井や、巨大な字幕式の出発案内がなくなってしまった(LED化)のはあまりに寂しい。あの内装は、海外旅行のえもいわれぬ高揚感が体現されているようで好きだったのだが。

 綺麗なショッピングセンターも併設されていて、日本最後の食事をマクドナルドでとる。笑うなかれ。空港や遊園地といった物価のむやみに高いエリアでは、全国均一価格のファーストフードチェーンは非常にありがたいのだ。

 金属探知機にひさめ氏がひっかかり、ベタな笑いを取る

 本日の航空機は英国航空。言わずと知れたチョー一流航空会社であるばかりか、成田発13時05分と絶妙な時刻設定である。これ以上早い便だとひさめ氏は東京前泊を強いられるところであった。HISにツアー申し込みをしたのは僕であるから鼻高々であるが、航空会社指定をしたわけではない。偶然BA008便になっただけである。

 BAはテレビ画面が各座席についており、さすがと思わせたが、僕は映画を見る人ではない。一番の楽しみは音楽メニューであるのだが予想に反して日本語はない。そうなると機内ではガイドブックを読むくらいしか暇つぶしの方法が見当たらない。が、読書灯不良。結局退屈で怠惰な12時間半を過ごす他なかった。

 17時20分(日本時間23日1時20分)、定刻より15分早くロンドン・ヒースロー Heathrow空港に到着。くたびれて目まいがする。が、ともあれ入国審査の長い列に並ぶ。列の先にアラブ系のじいさんが座っていて、開いたブースを指差し旅行者を誘導している。1日中あんな仕事じゃ張り合いなかろうと思う。

 イギリスの入国審査はヨーロッパの中では異常に厳しいことで知られている。気になるから前の方を眺めていると、やはり時間のかかっている日本人がいる。どうなることかと思っていると、フロアをうろうろしていた係員がやって来て通訳を始めた。僕の英語力とて大したものではないが、日本人として恥ずかしいから通訳の世話にだけはなりたくない。

 列の進みは遅々としていたが、ようやく順番が近くなる。と、ひさめ氏が前の人について行ってブースへ向かってしまう。いかつい顔がますます厳しくなるアラブ翁。が、ひさめ氏全く気付かず。仕方なく叫ぶ僕。だ、大丈夫かいな。

 結局入国審査は滞在日数を聞かれたくらいであっさり通過。ひさめ氏はフリーパスだったそうだ。フライングでこいつは人畜無害だと判断されたに違いない。

 ホテルまではHISが送ってくれる。が、1名行方不明になりやたら待たされ、数十分後にようやく移動開始。途中でブラック・キャブを見つけてようやくイギリスへ来た実感が湧く。高速道路にでも乗るかと思ったが、ただのだだっ広い道を走る。何度かホテルに止まり、街中に入った3つ目が我が宿Royal Nationalである。なんというベタな名前のホテルであろうか。それはいいとして、これまでに寄ったホテルより明らかにエコノミーである。いささか不安を覚える。

 HISはチェックインまではやってくれず、僕達とあと1組を降ろして走り去ってしまった。大きなホテルである。降ろされた場所は中庭然とした場所であるが、ツアーバスが何台も止まり騒々しい。日本人専用と言う訳ではなく、まあありとあらゆる人種の旅行者がひしめいている。やっとの思いで鍵をもらい部屋に入る。瞬間、「しまった、やっぱり最低のDランクじゃ駄目だった」と後悔の念に駆られる。普段YHに泊まっているのにそう思ったのだから部屋のレベル推して知るべしである。ここで4泊もするのか、とひさめ氏と顔を見合わせる。

▼ 2000年9月23日(土) 衛兵交代 天高し

 Dランクホテルの宿泊料金にはコンチネンタルブレックファストが含まれている。さてどんなもんじゃいな、と各フロアにある朝食受け取りのスペースへ行くと、パン1種類とジュースが置いてあるだけだった。こりゃあ別料金払ってでも1度イングリッシュブレックファストを食べにゃあかんなぁとひさめ氏と話すが、結局毎日同じパンを食べた。そんなものである(何が?)。

 午前中はHISの市内観光ツアーがある。集合場所までは地下鉄 Undergroundに乗り自力で行かねばならない。無論元鉄研のひさめ氏と僕にとってそんな事は朝飯前、のはずであったがホテルを出てから駅までいきなり道に迷う。

 最寄りのピカデリー Piccadilly線ラッセル・スクエア Russell Sq.駅は地下駅ながら古風な駅舎をもっている。いきなり自動改札機を上手く通れずまごつく。乗車券(これがまた日本人の感覚からすると、変な場所から出てくるのだ)をとらないとゲートが開かないらしい。ひさめ氏はすんなり通過。「地球の歩き方」で予習してきたらしい。

 ホームへはエレベータで行く。エスカレータはいくらでもあったが、エレベータに乗ったのはこの駅だけである。降りたのはホームの1つ上のフロアで、ここから上下線各ホームへ階段で降りる。この階段はどの駅でも狭い。大荷物の客がいると難儀するし、バリアフリーにも程遠い。

 チューブとはよく言ったもので、ホームはまさしく丸い。東京でも千代田線国会議事堂前のように丸い駅はあるが、Undergroundの車両サイズは日本のミニ地下鉄(大江戸線など)よりさらに一回り小さいので、丸さが余計際立つ。

 待つほども無く電車がやって来た。白と赤の近代的な車両で、12〜15m級3扉ロングシート車である。6両くらいつないでいただろうか。乗車率は結構良かったように思う。

 結構なスピードで飛ばして、ホルボーン Holborn駅に到着。近くの大英博物館に合わせた内装の連絡通路を抜け、セントラル Central線に乗換え。車両はピカデリー線と塗装まで同じである。案内表示はラインカラーによる色分けがされているが、車両については特に区別がされていないようだ。(お気付きかと思いますが、地下鉄の記述が異様に長いのは作者の嗜好性のなせる技であります。平にご容赦を。)2つ目のオックスフォード・サーカス Oxford Circus駅で下車。

 地上に出てみると、そこは繁華街の交差点であった。近代的な、しかしヨーロピアンなビルが立ち並び、四方八方からこの交差点めがけてあの赤い二階建てバスが走ってくる。おお、いぎりすだ、と無性に高揚する。

 集合場所は日系(JAL)の免税店であった。定刻10時に二階建てバスに2台に分乗し出発。2階の一番前にしっかり陣取る。

 バスは繁華街を走りピカデリー・サーカス Piccadilly Circusにさしかかる。ロンドン一有名な広場だそうである。ちなみに僕の母が昔ここで撮ったスナップを旅行前に見せてもらったが、風景よりも彼女がめちゃくちゃ若いことに仰天した。確かに今の僕より年下ではあるのだが。まだ海外旅行が珍しく、家族がネクタイ締めて羽田に見送りに来るような時代の話である。

 ついでバスはトラファルガー・スクエア Trafalgar Sq.を通過する。テレビで見覚えのあるライオン像が鎮座している。トラファルガーと言えば猿岩石である。分かる人には分かるだろうが、それにしてもどうしてそんな事を覚えているかと思う。

 やがてバスはウエストミンスター宮殿(国会議事堂 Houses of Parliament)のすぐ脇を通過する。月並みだがビッグ・ベンはさすがにでかい。とてもカメラに収まらない。次いでテムズ Thames川が現れる。木々越しに見る川の雰囲気は、浅草辺りの隅田川に近い。そして左折しテムズを渡る。ガイドさんが「ちょっと汚いですけどねー」と言う。確かに汚い。隅田川より汚いと感じたぐらいだから相当に汚い。川べりにLondon Eyeが聳えている。ミレニアムを記念した世界一大きい観覧車だそうだ。こんな街中によく作ったと思うが、どう見てもみなとみらいのコスモクロックの方が大きく見える。いろいろとツッコミに忙しい。

 橋を渡ったところで降ろされる。川向こうのビッグ・ベンを入れて記念写真を撮るには絶好の場所である。めいめい写真を撮りバスに戻ると、1人行方不明になっていた。「迷う所じゃないし、行きましょう」とガイドはバスを出させてしまう。JTBでこんな事をやったら訴えられそうだが、このノリが通ってしまうからHISは凄い

バッキンガムにて  先を急いだのはバッキンガム宮殿 Buckingham Palace衛兵交代見物の場所取りのためである。2日に一度のこの超メジャーイベントは、それこそ世界中から観光客が押し寄せる。バスはこれ裏道ちゃうかという細い道をくねくねと走ったが、やはり途中から渋滞にはまった。下車すると添乗員はものすごい早足で人並みをすり抜けていく。お年寄りは間違ってもHISを利用しない方がいい。迷子になること必至である。

 結局大した場所は取れなかったが、一応見えることは見えたので良しとする。

 近所の別の宮殿に行くと、こちらも衛兵が交代したところであった。衛兵並んで写真を撮る何人もの観光客&ひさめ氏。彼らに囲まれ真っ赤に顔を上気させた衛兵撮る僕。うーむ、ひねくれている。

 このあと、HIS一同で記念写真を撮るが、いまだにその写真を受け取っていないことに今この文章を書いていて気付く。あとでひさめ氏の掲示板に書いておこう(作者注・2003年3月現在、まだ届いていません)。

 出発地点に戻り免税店のお姉さまの話を拝聴する。しかしその後流れ解散になったから、無理に買わそうというスタンスではないらしい。HISのツアーは実用本位で好感が持てた。以前ハワイに行った時はKツリに散々免税店を連れ回されたのだが、えらい違いである。

 近くのショッピングセンターのレストランでフィッシュ&チップス(イギリスのファーストフード)っぽい昼食をとる。メニューの写真より量が多く食べ過ぎた。ましてケーキまでつけてしまったひさめ氏をや。

 その後ひさめ氏は本屋へ。僕は歩いてルイ・ヴィトンのお店に行く。まさかあいつがブランドショッピング、と驚く人はまぁいないだろうが、とどのつまり会社の人に頼まれた買物である。世話になっているとはいえ、調子よく引き受けてしまった僕も僕。

 さすがの僕でも名前くらい覚えのある高級ブランド店がずらりと並んだ繁華街を歩く。ガイドブックによれば、この通りの中ほどにヴィトンがある。が、その場所に立っていたのはなぜか靴屋。一瞬ヴィトンは移転したのかと思ったが、この靴屋閉店セールをやっている。地図が間違っているらしい。周りを見渡すもそれらしき店は見つけられなかったのであえなく撤収。どっと疲れた。

 ボンド・ストリート Bond St.駅から地下鉄セントラル線に2駅乗りトッテナム・コート・ロード Tottenham Court Rd.駅で下車。ひさめ氏のいる本屋にたどり着く。もう1軒本屋に寄り、さらにもう1つついでの用事を足してホルボーン駅からセントラル線に乗り、オックスフォード・サーカス駅でベイカールー Bakerloo線に乗換え、ベイカー・ストリート Baker St.駅で下車。はい、位置関係が分からなくなってきましたね(笑)。

 この辺りがあのシャーロック・ホームズ Sherlock Holmesに出てくるベイカー街である。ひさめ氏が非常に楽しみにしていたシャーロック・ホームズ博物館を訪問する。小説の名シーンが蝋人形で再現されていて、半分くらいは分かる。土産コーナーであの宮崎駿のアニメビデオ発見(日本語版の模様)。

 博物館からの帰路、ひさめ氏が2日目にして早くも「ヨーロッパはつまらんわ」と大問題発言をする。「え、駄目かね」「うむ、やっぱ熱気が感じられんら」僕はアジアに関しては台湾にLook JTBの大名行列上膳据膳ツアーで行った事がある程度なので比較はしづらいが、そういうものであるらしい。が、ひさめ氏は加えてこう言った。「女の子はきれいだけどもね」これは同感で、博物館のメイド服の女性など、かなりの美人であった。北欧やドイツと比べてもそう感じるのは、ロンドンが世界有数の大都市、つまり若者が多いということに尽きるのであろう。

 なりゆきで近くのターミナル駅(といってもロンドンのそれで一番小さい)、メリルボーン Maryleboneに寄り、ここからベイカールー線でピカデリー・サーカス駅まで行き、ピカデリー線に乗換えホテル最寄りのラッセル・スクエア駅で下車。ふと気がついたのだがこの駅の利用客、海外からの観光客ばかりである。それほどにロイヤルナショナルは巨大なのである。

 夕食はこれまたひさめ氏が切望した中華街で、と言うことになる。再びラッセル・スクエア駅に着いたところで、ひさめ氏が1日乗車券を忘れたことに気付く。やむなく切符を買おうとするが、あろう事か券売機が故障している。下車駅で申告してくれと手書きの注意書きが出ていたが、さすがに不安を感じひさめ氏はホテルへ引き返す。

 本日3度目のピカデリー線でレスター・スクエア Leicester Sq.駅下車。地上に出るといかにも夜の繁華街で人出が尋常ではない。別に妖しげな雰囲気は無いのだが、そこはかとない不安を覚える。中華街では太鼓を打ち鳴らしてパレードらしきものが行われており、これは楽しい。人ごみが嫌いだがお祭り好きなのである。

 ひさめ氏の「歩き方」に載っていたお店の一つに入る。一皿くらい笑いを取れるような変な品があったような気がするが、よく覚えていない。

ホテルでテレビをつけると、オリンピックの女子マラソンを放送していた。どこかの国の良くわからん選手が1人で独走していて、日本人は見当たらない。レース展開が気になるが疲れたので、とりあえず寝る。起きたら朝で、僕はもとよりひさめ氏も結果を知らなかった。


(つづく)

2001.1.14
on line 2003.3.2
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