TOKYOちかてつWALKER・第6回



上って下りて有楽町線

市ヶ谷〜有楽町(千代田区)




有楽町線路線図

 日々利用している人には悪いが、どうも有楽町線という路線は影が薄い。埼玉から臨海部へ南東方向に下っていく、という線形だから、神奈川県民たる僕が都心に出る際に使いようがない。末端の有楽町〜新木場あたりは有明地区への裏ルートとして利用価値があったが、これもりんかい線が全通した今となっては用なしである。

 せめて今回は、その有楽町線のなかでも比較的メジャーな区間と言える市ヶ谷から有楽町までを歩いてみたい。田原町や代々木と言った微妙にハズしたルートばかり歩いてきたから、そろそろ王道・千代田区を攻めてみたい頃合でもあった。


 2003年2月15日(土)、12時45分市ヶ谷着。もちろんここまでは有楽町線ではなく、新宿線でやって来ている。市ヶ谷はかつて就職活動の頃に、よく乗り降りした駅である。別に思い出深い会社があるわけではないのだが、なぜか市ヶ谷に来るとあの頃を思い出す。

 とはいえ、市ヶ谷駅頭の光景はここ何年かの間に微妙に変化している。すぐに目に付くのは、JR駅の上にどんと構えたスターバックス、そして向かいのエクシオール。ちょっと前までこの種のカフェは「おしゃれな街」のステイタスだったが、いまやうんざりするほどどこにでもある。と言いつつわが地元伊勢原市にはまだないのだが…。

 そしてもう1つ、地下鉄の入口に接して「マナーからルールへ」と書かれた看板が立っている。路上での喫煙を禁止した千代田区が立てた看板である。「マナー」を守ってくれないから「ルール」化する。現実にはその通りであるし、規制の趣旨には賛成するが、哀しい標語ではある。

 さて、有楽町線の線路は、市ヶ谷駅前の交差点から斜めに上っていく坂道の下に通じている。この道、手持ちの区分地図には「新坂」と表記されているが、現実にはそんな表示は見当たらず、「日本テレビ通り」という固有企業名を関した看板ばかりが目に付く。

 ともあれ、なかなかに急傾斜な新坂を上る。グレーの制服の女子高生と次々にすれ違う。坂を上りきった交差点に古びたビルがあり、「ケロリン」と大書してある。あの黄色い風呂桶の「ケロリン」である。よくよく見るとこのビル、薬品会社の事務所である。ケロリンって鎮静剤だったのか。知ってるようで知らなかった。妙な場所で妙なモノに出会うものである。

 すでに市ヶ谷の繁華街は尽き、周囲は雑居ビルばかりになり妙に静まり返っている。日本テレビ本社は、それら雑居ビルの並びにひっそりと建っていた。思わず見逃しそうになるほど目立たない社屋であった。無意味に派手派手しいフジテレビや、公共の公園の一角にどでかいスペースを占めるNHKと比べるとずいぶんとつつましいが、その実ここが俗悪番組の一番の発生源なのだから始末が悪い。
麹町駅
 時刻は13時。麹町駅はここ日本テレビと麹町大通り(新宿通)の間にある。緩い下り坂、ついで上り坂と起伏の続く道で、いったい真下のホームはいかなる形状になっているのかとしなくてもいい心配をする。おおかた地下深くに水平に設置されているのだろうが。

 TV局スタッフやひょっとしたらタレントが使っていそうな、小さいながらもアジありげな商店、「う」と看板を掲げた鰻料理店などを横目に見ながら坂を下り上りする。いつの間にか道行く制服が、グレーから青リボンに変わっている。上り坂には「善国寺坂」という名があるらしいが、相変わらず「日本テレビ通り」の看板の方が目立っている。

 麹町4丁目交差点をクランク状に越えると、道の名は「プリンス通り」となる。プリンスホテルでもあるのか、と見渡せば前方にそれらしき高層ビルがある。が、これは間違いで、キャピトル東急ホテルを誤認していたのであった。ともあれプリンス通りを進むと、交差する小道に「東京エフエム通り」の名が。固有名ばっかりじゃん。

 プリンス通りの麹町寄りはファーストフード店やコンビニが並び賑わっていたが、文藝春秋の前を通り過ぎる辺りから閑静な雰囲気となり、料亭が建っていたりもした。やがて両側には「○○会館」と名のついた立派なビルばかりが立ち並ぶようになる。設計屋さんがちょっと頑張ってみた、と言った風の意匠を凝らしたビルばかりだが、いまいち心に響いてくるデザインではない。むしろ区立麹町中学校の体育館や、向かいのプリンスホテル休館の古びた佇まいに心魅かれる。

道は下り坂となり、国道246号線にぶつかった所が永田町駅である。13時20分着。有楽町線・半蔵門線・南北線と新規路線ばかりが次々と通じて、いつの間にか一大ターミナルとなってしまった。のみならず、赤坂見附駅とも繋がっているのだが、銀座線・丸ノ内線乗り場への案内表示は全く見当たらない。試しに長い長い階段を下りて改札口まで行ってみてもそうである。乗り換えに時間がかかることであまりに有名な両駅だから、いっそ乗り換えの案内などやめてしまえ、と言うことなのだろうか。

 永田町駅南側出口を上ればほどなく、自民党本部前に出る。おお、なんかTVで見たことあるぞこのビル、とお上りさん的な感動に浸る。さすがに小泉総裁の大垂れ幕は消えているが、玄関には「政治制度改革本部」とか「米国同時テロ対策本部」といった「それホンマに活動してるんか!?」という組織の看板が、表通りから見える位置に設置してある。今日は人の出入りもマスコミの姿もなく静かである。

 振り返ればすぐそこに国会議事堂の屋根が、奥には東京タワーも見える。自民党、なかなかいい位置に本拠を構えている。通りには日の丸と、もう1種類別の旗が並べて掲げてある。何の旗なのかよく分からない。自民党旗ではなさそうだが。どこかの国と国交樹立○周年だったりするのだろうか。

 道は緩やかなカーブを描き、議事堂の裏手へと出る。左手何の変哲もないビルに「民主党」の看板が小さく出ている。建物が大きければ偉い、というわけではないにせよ、いささか地味に過ぎる。まあ、あんまり大きな看板を掲げても、いずれ名前が変わるだろうからコストパフォーマンスは悪そうだ。

 参議院と国会図書館の間の坂道を下る。3車線の広い道路に、人影は全くない。左手に今度は社民党本部。さすがにでかい。

 有楽町線の線路に忠実に、憲政記念館の脇から国会前庭へと入る。参議院の正面なのに、管理は衆議院。ここでも仕事をしてない参議院。まあどうでもいいが。

 公園の片隅には、「日本水準原点」が設置されている。「大日本帝国」の表記が残る古い石造りの小屋のなかに、なんだかよく分からないが日本の標高を決める基準になる物体が納められているらしい。つまりここが地盤沈下すれば、日本沈没となるわけだ。
国会前庭より
 相変わらず人気はないが、青年が一人フルートの練習にいそしんでいる。彼が立つ地点からは、警視庁・皇居から丸ビルまできれに見渡せる。直下の首都高速がうるさいとはいえ、練習するには気持ちのいい場所に違いない。

 桜田門へ向けて坂を下る。今回はダウンヒル紀行である。向かいの皇居の斜面が薄緑に染まっている。春はもう近い。麹町以来途切れていた人通りが増えだした。観光客やジョギングランナーが多い。

 14時05分、桜田門駅着。屋根も何もない簡素な出入り口が、皇居入口に接している。皇居はつい先日記帳に行ったばかりなので割愛し、国道1号線を歩く。白鳥や鴨そしてそれらを眺める人々。

 日比谷駅の入口を横目に左折・右折しビル街へ入る。次第に「○○ビルヂング」と名づけられたオフィスビルばかりになっていく。三菱の領域だ。やがてビックカメラの喧騒に巻き込まれ、東京フォーラムの大ビルが現れて14時20分有楽町駅着。


(つづく)

2003.2.23
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