TOKYOちかてつWALKER・第8回



嗚呼真夏日の南北線

駒込〜王子神谷(豊島区・北区)




南北線路線図

 南北線はなんだか近代的だ。原色に彩られたホームドア、意匠を凝らしたベンチ、ピカピカに磨きこまれたガラスと未だ真新しい電車。日常利用することの無い路線であるだけに、見るもの全てが異質に思えてくる。経由地にも白金高輪・麻布十番・六本木一丁目と縁の無いハイソな(死語?)地名が連なっている。

 しかしその高級感も長くは続かない。後楽園に着くと乗客はごっそり入れ替わり、車内の雰囲気は郊外路線の様相を呈してくる。この後楽園での変化があまりに鮮やかであったので、僕は「南北線には南北問題が存在する」と勝手に決め付けることにした。文京区や北区を38度線以北に例えるのは甚だ失礼ではあるし、練馬生まれの神奈川県民には言われたくはないだろうけれど。

 さて、この南北線、いったいどの辺りを歩こうか。麻布を散歩して六本木ヒルズにでも立ち寄るのが常道だろうけど、僕は「北」を目指すことにした。どう考えても六本木より駒込の方が性に合っているような気がしてならなかった。


 2003年6月29日(日)、12時06分駒込着。駅前には夏の明るい日差しが降り注いでいる。どうやら今日は真夏日になりそうだ。帽子を持って来ればよかった。

 南北線が来るまでJRの単独駅だった駒込は、山手線の駅と思えないほど小さく、そしてのんびりとしている。広場に接して碁盤を売る店がある。道の向こうには神社らしき建物があるが、近づいてみると個人の住宅だ。南側には六義園の緑が顔をのぞかせている。

 地下鉄線路の真上にあたる、本郷通を北上する。妙義坂とも名付けられた道は、カーブを描きながら緩やかに下っていく。沿道にはマンションも混じるが、ほとんどは食料品店を中心とする商店だ。「エネルギースーパー」という、エネルギーを吸い取られそうな絵入りの看板がかかった地場スーパーがある。瓦屋根の銭湯がひっそりと建っている。どうみても普通の民家がUFJ銀行の看板を出している。ファミリーマートの店頭で子供が植木に水をやっている。和やかな街だと思う。
旧古河庭園
 「北区」の表示板をくぐると商店街は終わる。坂を上り、木立に沿って左へ折れると旧古河庭園の入口が現れる。入場料を払う気はなかったのだが、ちらと見えた洋館に吸い込まれるように足を踏み入れてしまう。この種の建物にめっぽう弱い(造詣が深いわけではない)

 古河邸の佇まいはなかなかに良い。館から見下ろすように広がる和洋の庭園も情緒があり、表通りの喧騒が遠ざかる。水撒きでも終えたばかりだったのか、クモの巣に雫が丸まっている。

 本郷通の沿道はやがて、消防署・病院・公園と公共施設ばかりになってきた。12時50分西ヶ原駅着。少々のんびり歩きすぎたようだ。気温は上昇の一途を辿るばかりで、先が心配になってきた。

 なおも印刷局・警察署と公共施設が続く。「ゲーテの小径」と名付けられた道が分岐する。森の中を通り抜けでもするのだろうかと見渡しても、ごく普通の車道が住宅街へと通じているだけである。

 通りの右側に大きな公園が広がりだした。遮断機も何もなしに歩道を複線の線路が横切り、道路の中央へと通じている。東京都電の飛鳥山駅前である。ここで本郷通は国道122号線(北本通)に合流し、都電は王子まで国道の上を走る。路面電車を眺めつつぶらぶらと122号の坂道を下っていくのも悪くないのだが、僕は歩道橋を渡り飛鳥山公園に入った。その方が地下鉄のルートに忠実だし、何より暑い。

 飛鳥山公園の噴水には、大勢の子供たちが群がっていた。木陰に腰掛けるといくらかは涼しいが、風がないのでさほどひんやりとはしない。耳を凝らせば周りから、都電の警笛や東北新幹線のくぐもったジョイント音、高崎線E231系の軽やかな走行音、京浜東北線209系の盛大なブレーキ音が聞こえてくる。三方をJRと都電に囲まれ、地下には南北線と首都高速が貫通する飛鳥山は、交通の要衝なのだ。

 飛鳥山駅から見て反対側へと下りる階段を伝うと、JR王子駅ホームの裏手に出る。バラックの飲み屋が並び、打ち捨てられたかのように草むしたお堂もある。駅前から流れてくる喧騒が、ことさら耳につく。

 13時20分、王子の駅前に到着。往来の激しい賑やかな駅だが、何だかしっくり来ない。古ぼけたショッピングセンター、その裏にそびえるゴルフ練習場のネット…なんと言うか、ばったもんの匂いがする街である(王子の皆さん、ごめんなさい)。
王子消防署
 それでも駒込と比べてずっと栄えてはいる。マンションと駐車場に囲まれて、地上げに耐え切った風の小さな花屋がある。バス停を見れば、実に多くの路線が設定されている。それにしても、ここから杉並車庫なんてどうやってたどり着くのかさっぱり見当がつかない。

 首都高速の入口が絡んで複雑怪奇な形をした六差路を越えたところで、裏道へ入ってみる。途端に霊柩車が現れたのはともかくとして、小住宅が並ぶ光景には中々趣がある。小さな教会でミサが行われ、「やきとり屋」の看板を出した謎の電気店があり、区議が車を止めて議会報告をしている。

 国道に戻ると再び喧騒に包まれる。レトロな外観を残した消防署があり見ほれるが、いい加減暑さで頭がぼんやりとしてきた。13時45分、公団団地に接した王子神谷駅に到着。階段を下りていくと、トンネルから吹き上げる涼風が身を包んだ。


(つづく)


2003.7.26
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