TOKYOちかてつWALKER・第13回



冬晴れのみち田園都市線

二子玉川〜桜新町(世田谷区)




田園都市線路線図

 雪から一夜明けた2004年12月30日(木)、伊勢原駅から小田急線に乗った。

 と言っても、降雪があったのはずっと東京よりの方で、温暖な伊勢原は雨が降るばかりであった。車窓に残り雪が見えだしたのは相模原辺りから。長津田回りで半蔵門線の電車に乗り継ぐと、日陰にはしっかりと積雪がある。ぱっと風景が広がると、溝の口。程なく多摩川を渡る。小田急なら登戸まであっという間だけど、違う路線で渡ってみると、随分遠くまで来たように思えるから不思議だ。9時45分、二子玉川で下車。

 大井町線と田園都市線のホームを入れ替える大改良工事が終了してから、この駅に降りるのは初めてのような気がする。高島屋側の出口は道路が目の前に通じ、決して広い駅前ではないはずなのに、良く整備されて狭さを感じさせない。人工的な街並みを眺めながら、この景観は小田急沿線にはないなぁと思う。他方世田谷らしいかと言えば、それもそれで答えはNOである。

 高島屋の前を過ぎると、人通りはぱったりと途絶えた。途端にローカルな雰囲気がにじみ出てくる。西行きの車道は高島屋に入る車で渋滞している。反対側にはSLをかたどった不可思議な車が止まっている。瀬田温泉なる施設への送迎バスらしい。

トンネル出口 左手から迫ってきた国道246号線の高架を避けるように、右手の路地へと折れる。細い川にそって、沿道の人たちが丹精に 世話しているらしい植木の鉢が並んでいる。見上げると、家並みの少し上を東武30000系が通過していく。高架の二子玉川駅から一気に地下へと降りる地点である。トンネル出口脇にはちょうど歩道橋がある。登って振り返れば、すっきり晴れ渡った空、どこまでも続く住宅、そして富士山。絶好の展望台である。

 富士山と、そしてもちろん電車の写真を撮って反対側に渡る。「瀬田夕日坂」と看板が立てられている。何の変哲もない小道だが、夕刻に訪れればまた違った風合いなのかもしれない。

 線路沿いの道に戻ると、車道の真ん中に歩道が通じるという不思議な風景に出くわした。真下から地響きが伝わってくる。沿道には材木屋、「屋久杉工房」なんて建物もある。この界隈が一面雑木林だった時代の、かすかな残り香だろうか。

 やがて瀬田交差点へと突き当たる。246号と環八が立体交差し、その真ん中を我が細道が斜めに横断すると言う複雑な交差点である。田園都市線も細道(ここから都道427号線となる)と一緒に瀬田交差点を横断する。歩道橋はガチガチに凍結していて、履き慣れ過ぎて磨り減った靴では危なっかしい事この上ない。

 427号線で目に付くのは、アパート、新聞店、ベタベタ貼られた政治家のポスター、町工場。要するに雑然としている。しかし年末のせいか町は静かで、ぴりりと冷たい空気が心地よい。そんな風景を押しつぶすように首都高速3号線の高架橋が現れる。高速道路の下はどぶ川。しかしそれさえもフタがされて駐輪場に化けている。魔でも差したかのように、この一角だけが薄暗い。

 すぐ先が用賀駅で、10時着。小さなショッピングセンターの脇に、味も素っ気もないコンクリの入口がある。急行通過駅だし、まあこの程度かと思っていると、先へ進むほど賑やかになってきた。再開発ビルや立派なバスターミナルもある。この辺り、廃止された玉電用賀駅の所在を示す石碑があるらしいのだが、下調べを全くしてこなかったので存在すら知らずスルーしてしまった。

 ターミナルを次々に発車する東急バスは、どれも馬事公苑通りとの十字路を曲がってしまう。繁華街はここまでで、427号線は閑静な雰囲気に戻ってしまった。瀬田〜用賀よりは高級そうな印象のある街並みで、3階建てくらいの中層マンションが並んでいる。緩い上り坂、拡幅工事中だが元の道幅はずいぶん狭い。本当にこの真下に地下鉄が通じているのだろうかと思う。
桜新町駅
 軒先から車の屋根から、ぽたぽたと雪解け水の滴る音が静かな町に響く。坂を上りきると道幅は広がり始め、創価学会の前辺りから商店がぽつぽ つと目に付くようになった。早くも桜新町の繁華街に差し掛かったようだ。世田谷と言う土地柄か、あるいは東急沿線故なのか、どの店も小洒落ているように見える。ただの中華料理屋が「飲茶」と名乗り、パブも「テラス」と表記される。

 しかし駅が近づけば、雰囲気はいずこも同じで、御馴染みbook offが現れる。パチンコ屋の前でヨン様そっくりの男が客引きに勤しんでいる。道の両側にずらりと並んだ商店を眺めていると、やはりここは「地下鉄」じゃなくて「私鉄」の駅だなあと思う。東京メトロや都営の駅とは明らかに違う、郊外駅の香りがぷんぷんと漂っているのである。駅入口前の1等地には、農協さえ建っている。電車が地上を走っていないのが、不思議にさえ思える街並みである。

 10時45分、桜新町着。少々急ぎ足気味だったが今日はこれでおしまいにしよう。沿線随一の観光地?長谷川町子美術館に立ち寄る事もなく、僕は改札への階段を小走りに駆け下りた。


(つづく)

2005.2.13
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