関東私鉄しりとり&サイコロの旅  第1回 


 2012年5月6日(日)、5時台に起床してまずは地元・京成線に乗り、スタート地点を目指す。駅名リストをまとめるまでは、五十音順で最初に来るのは愛甲石田(小田急)かなとなんとなく思っていたのだが、ここは2番目であった。正解を知れば、ああそういえばそんな駅があったなと深く納得。子供の頃、なにかの本(もちろん鉄道の本だ)で、国鉄で五十音順で最初の駅として紹介されていた記憶がある。もっとも、メジャーなのは読みが同じ山陽新幹線の駅の方だが。

 関屋で降りて、目の前の東武牛田駅から6時54分発の区間急行太田行に乗車、次の北千住で7時11分発特急「りょうもう」1号赤城行に乗り換える。のっけから有料特急利用である。20m車6連の「りょうもう」は定員を極限まで多くする設計方針だったのか、扉数が少なく、4号車に至っては扉もデッキも洗面所も無し、1両まるまる客室という思い切ったつくりをしている。もっとも今日はガラガラである。足元からはもはや懐かしい抵抗制御車の唸りが聞こえてくるが、車内の自動放送は近年更新されたのか、4ヶ国語対応である。

 延々と住宅が続く中を、「りょうもう」は流して走っている。高層マンションはまれで、箱型の古い団地ばかりが目に付く。北春日部を過ぎるとスピードが上がり、東武動物公園を発車するとあっという間に田園風景に転じた。さらに館林を過ぎれば単線となり、次の多々良で運転停車をして上り2本の交換待ち。その次の県で続行してきた上り「りょうもう」を更に待つ。看板列車なのに随分虐げられたスジである。我が1号は土休日のみ運転だから、格下扱いなのかもしれない。

 太田から桐生線に入ると、車内はますます閑散とした。8時49分、ようやくスタート地点に到着する。相老である。


駅目
相老    いお   (東武鉄道桐生線 / TI56 / 群馬県桐生市)
相老駅舎 相老駅名標 相老


 東武鉄道とわたらせ渓谷鐵道(旧・国鉄足尾線)の接続駅である相老は、広い構内を有していた。表側にわ鐵、反対側に東武が隣り合っていて、半ば強引にフェンスで区切ってあるが、屋根無しの跨線橋で直接繋がっていて、駅舎は共用である。駅員は東武の制服を着ていて、馴染みの乗客や観光客と会話を弾ませている。ローカルムードが存分に漂っているが、大手私鉄の駅だから勿論PASMO対応である。さすがに自動改札は無い。

 駅前広場は綺麗に整備されているが、駅の向かい側はいきなり住宅街で、臨時休業(本当に「臨時」かどうかは知らない)の看板を掲げた喫茶店のほかに商業施設は見当たらない。駅裏には、市営住宅と思われる団地が並んでいる。あくまで街の玄関は、1つ手前の新桐生かJRの桐生で、ここはたまたま2つの路線が並んだだけ、という立地らしい。

 さて、記念すべき?サイコロ第一投を降るとしよう。次の目的地として最善は、ゴールにつながる駅、つまり「わ」で終わる駅である(当たり前だが、「を」「ん」で始まる駅は存在しない)。「わ」終わりが無いとすれば、なるべく近距離の駅がいい。遠い方が旅らしくなるかもしれないが、ここは効率よく多くの駅を回ってみたい。

 さて、候補は以下の6つである。


2駅目の選択

駅名
会社
路線

家中
東武
日光線

井荻
西武
新宿線

生田
小田急
小田原線

池上
東急
池上線

池尻大橋
東急
田園都市線

池ノ上
京王
井の頭線


 五十音順の上位6駅に乗降済の駅や会社の偏りはなく、そのまま候補に採用する。「わ」終わりがないばかりか、どれも遠い。現在地が大手私鉄路線網の末端に近い(次の赤城が桐生線の終点)ため、東京方面に長距離移動を強いられる駅が大半なのは止むを得ない。3に至っては神奈川県である。

 この中で異色なのは1で、唯一東武で戻らず、わ鐵で桐生に出てJR両毛線に乗ることが出来る。折角ならこれが面白い。

 えいっ。


サイコロ2  → 6 池ノ上


 そうは問屋が卸さない。いざ東京。わ鐵のレールバスを指をくわえて見送り、「りょうもう」で逆戻りである。


利用区間
路線
種別
行 先
発時刻
着時刻
相老 → 館林
東武桐生線 他 特急りょうもう
浅草 9:13
9:53
館林 → 久喜
東武伊勢崎線
普通
久喜
9:56
10:26
久喜 → 渋谷
JR湘南新宿ライン
快速
大宮から普通
逗子
10:29
11:20
渋谷 → 池ノ上
京王井の頭線
各停
吉祥寺
11:31
11:36


 2本続けて特急では、なんとも懐が痛い。北千住まで乗らずに東武動物公園で急行に乗り換えようかと窓口で尋ねると、料金は北千住と変わらず1,000円だと言う。1つ手前の館林なら、と問えば、いきなり半値の500円に下がった。いささか極端である。車両は案の定、先ほどまで乗ってきた編成であった。今度は混んでいる。足利市の手前、野州山辺で牛田から北千住まで乗った区間急行と行き違う。さすがに特急は速い。高いだけの事はある。

 館林で階段を上り下りして、普通列車に乗り換える。時間帯が良いのだろう、6両なのに満員である。だだっぴろい関東平野の中を、電車は90km/hほどで快走する。架線柱に、カラスがハンガーで巣を作っている。かぶりつきつつ携帯をいじっていると、久喜でJRに乗り換えた方が速い事に気づく。続々とお客さんが乗り込んで久喜には少々延着。かなりの人数が向かい側にやって来る急行電車に目もくれず、連絡改札を目指して階段を駆け上がっていく。

 湘南新宿ラインは、15両編成のいちばん後ろまで歩いても満席である。大宮でさらに混み、新宿からすし詰めになった。いつの間にか車内にはオタクっぽい人や外国人が増えている。都会だなあ、と思う。館林から立ちっ放しで、さすがにくたびれた。止めを刺すように、JRから京王渋谷駅までがやたらと遠い。

 ようやく井の頭線ホームに辿り着くと、続々と到着する電車から呆れるほどの数の人が吐き出されてくる。さすがに折り返しは空いている。井の頭線もいまや新型車両ばかりで、車体側面や車内の行先表示には急行の接続案内まで表示されている。京王、細かいなあ…


 あいおい →
駅目
池ノ上    けのう   (京王電鉄井の頭線 / 東京都世田谷区)
池ノ上駅舎 池ノ上駅名標 池ノ上


 ホームには狭いながらもガラス張りの待合室が備えられている。ベンチも駅名標も新しく綺麗で、ガラス張りの壁から改札周りに陽光が差し、フルカラーの発車案内が鎮座している。小さいながらも設備の充実した、いかにも京王らしい駅である。

 渋谷まで3駅、両隣は天下の駒場東大前と下北沢、最高の立地の池ノ上だが、車窓からはスラム然とした下品な落書きがやたら目に付くエリアで、正直あまり良い印象を持っていない。降りてみればごくごく普通の住宅街で、アカデミックな香りも盛り場の猥雑さも周囲に任せたとばかり静まり返っている。商店街に飲み屋は少なく、ファストフード店も牛丼屋も無い。駅前通りからしてバスも乗り入れられないほど狭いが、脇にそれれば下町のようなさらに細い道がうねっている。

 駅裏に回りこんでみると、電車が踏切にちょこんと載って停車していた。ホームからはみ出しているわけではなく、駅そのものが編成長スレスレなのだ。東大とシモキタに挟まれた、小さなエアポケットと言ったところだろうか。

 さて、次。


3駅目の選択

駅名
会社
路線

江曽島
東武
宇都宮線

江田
東急
田園都市線

荏原町
東急
大井町線

永福町
京王
井の頭線

江古田
西武
池袋線

江戸川
京成
本線


 1〜3が未乗降駅、4以降は乗降済の駅である。6に「わ」終わりが初登場したが、まだ始まったばかりなのに地元方向に戻るのは気が進まない。圧倒的に近いのは勿論4、乗降記録を伸ばす意味では2・3でもOKだろう。

 どれが当たり目か、捉え方は色々。だがひとつだけはっきり言える事がある。1は勘弁して!


サイコロ3  → 2 江田


 よし、OK。神奈川県だが、渋谷で乗り換えるだけだからすぐである。


利用区間
路線
種別
行先
発時刻
着時刻
池ノ上 → 渋谷 京王井の頭線 各停
渋谷 12:04
12:09
渋谷 → 鷺沼
東急田園都市線 急行
中央林間 12:15
12:33
鷺沼 → 江田
東急田園都市線
各停
中央林間
12:36
12:40


 渋谷の地下ホームにやって来たのは、元TQ-BOX車と思われる東急8500系。シールをはがした跡がある。相変わらずの豪快なモータ音に惚れ惚れ。

 各停に乗り換えるため鷺沼で降りると、ホームに随分撮り鉄が多い。ダイヤ表を片手に、助役さんまで立っている。なんだなんだと見渡すと、上りホームに検測車が止まっている。次のたまプラーザ駅にも、その先の線路脇にも撮影者が鈴なりで、どうも鷺沼で折り返して下ってくるらしい。なんでマニアが繰り出す大型連休中にわざわざ走らすのかと思う。まさか、わざとか?


 あいおい → いけのうえ →
駅目
江田    えだ   (東京急行電鉄田園都市線 / DT17 / 神奈川県横浜市青葉区)
江田駅舎 江田駅名標 江田


 江田駅の最後尾にも撮り鉄が数名。折角だから自分も撮るか、と先頭からぶらぶら歩いていくと、ホーム中ほどで接近放送が流れ始めてしまった。しかも、柵がある通過線側への入線である。慌ててカメラを構えたが、まともな写真が撮れるわけがなかった。検測車にはデビュー記念のヘッドマークが付いている。まさかの「わざと」であった。東急凄いな。

 ホーム階は最近改装されたのか、流行りの幕屋根が構内全体を明るく覆っている。駅前は東名高速と国道246号が通じていて、大変に騒々しい。閑静な住宅街や過剰に光り輝いたショッピングモールが定番の田園都市線としては、ちょっと異色な光景である。近隣の駅に通じる市営バスが頻繁に発着していて、思わず乗りたくなってくるが今日は我慢。駅前広場に、以前住んでいた街にもあった中華料理チェーンがあってふらふらと吸い込まれる。

 やたらと人懐っこい鳩にまとわり付かれながら、次の選択である。


4駅目の選択

駅名
会社
路線

大神宮下
京成
本線

代田橋
京王
京王線

大谷向
東武
鬼怒川線

高井戸
京王
井の頭線

高坂
東武
東上本線

鷹の台
西武
国分寺線


 うーん、なんとも中途半端な顔ぶれである。比較的行き易いのは2か。3が出たらへこむが、江戸川以上に自宅に近付く1もやめて欲しい。まだ昼食をとったばかりである。


サイコロ4   → 1 大神宮下


 だーかーらー、なんで1なの。がっくしである。


利用区間
路線
種別
行先
発時刻
着時刻
江田 → 鷺沼 東急田園都市線 各停
久喜 13:18
13:24
鷺沼 → 押上
東急田園都市線 急行
南栗橋 13:26
14:14
東京メトロ半蔵門線
押上 → 東中山
京成押上線 他
快速
佐倉
14:22
14:43
東中山 → 大神宮下
京成本線
普通
うすい
14:46
14:54


 やって来た上り電車はTQ-BOX車。先ほどの急行と同じ編成である。鷺沼で乗り継いだ東武50000系も、江田まで乗った各駅停車のような気がする。車掌の声にまで聞き覚えがある。表参道で席が空いて爆睡するが、墨田区の方まで行っても眠りこける前に見かけた人が随分残っている。案外に東西間の流動があるものだ。

 スカイツリーオープン間近でごった返す押上で乗り換え。半蔵門線より浅草線で来る人の方が多いように見える。京成のホームで会社の人にばったり会って、何やっているんだと問われるが、いやはやどう答えたものか。

 昼下がりの快速は程よく空いている。車端部に座ったおばちゃんが、連れに京成のダイヤを熱心に語っている。「あっち(青砥の対向ホーム)も津田沼行くけど、各駅停車だから。こっちは快速」「昼は快速しかないのよ。特急は上野から来るの。朝なんかだと逆になるけど」むむむ、随分使いこなしているぞ。

 東中山で待っていた各停はさらに空いていた。船橋で多少の乗客を迎え入れると、次が大神宮下である。


 あいおい → いけのうえ → えだ →
駅目
大神宮下   いじんぐうし   (京成電鉄本線 / KS23 / 千葉県船橋市)
大神宮下駅舎 大神宮下駅名標 大神宮下


 船橋市内高架化に合わせて落成した駅舎は新しさを保っていて、ホームも京成とは思えないほど広い(ただし、えらくカーブしている)が、改札や出口周りはコンパクトにまとめられていて、元々は小ぢんまりとした駅だったのだなと容易に窺い知れる。駅前の往来が船橋大神宮の正面に通じていて、大神宮"下"とは適確かつつつましいネーミングだが、今は駅の方が"上"にあるわけだ。

 和菓子屋や竹細工店が混じる道から境内に入る。内部は意外に広く、思いのほか厳かで、存外多くの参拝客が行き来している。繁華街の喧騒や車の排気音が聞こえてくるが、それでもここは別世界だ。こんもりと茂る木立の中から、洋館風の建築が頭を突き出している。灯台との由。京葉線も京葉工業地帯も存在しない頃、小高い大神宮は海上交通の要衝だったのだ。むむ、自宅に近付いたのになんだか旅気分だぞ。

 さて、次は2駅連続の「た」だ。


5駅目の選択

駅名
会社
路線

代田橋
京王
京王線

大谷向
東武
鬼怒川線

高井戸
京王
井の頭線

高坂
東武
東上本線

鷹の台
西武
国分寺線

高柳
東武
野田線


 大神宮下が抜けた代わりに、6に東武野田線の高柳が入った。なんとしても6を出したい。あとは全部逆戻りである。4だと今日は続行するかどうか微妙、2ならアウトだ。振るのは神社の境内である。今考えれば、賽銭箱を前に良い目が出るよう必死に祈るべきだった。無病息災とか良縁成就なんて、とりあえずどうでも良かったのだ。


サイコロ5  → 2 大谷向


 天罰。文字通り神に見放されてしまった。栃木県。一応到着時刻を検索してみる。スペーシアを利用しても、18時23分。

 …帰りますか。


 そんな訳でいささか消化不良のまま終了した第1回。果たして今後、どんな展開を見せるのか。誰よりもヒヤヒヤしているのは当の本人である。


(つづく)

2012.6.18
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