今度の旅はレアバスで・第2回


乗るのも乗ってもぐるぐると

川崎市交通局 柿03 柿生駅→新ゆりグリーンタウン





 急行新宿行は、座間駅を高速で通過して相武台に向けてカーブを切った。線路際の桜並木は散り時を迎えていて、電車が通り抜けた後に花吹雪が舞っている。春だなぁ、と月並みだがそう思う。

 新百合ヶ丘駅で各駅停車に乗換え、14時33分、読売ランド前駅(川崎市多摩区)で下車。初めて降りる駅である。今日(2001年4月7日土曜日)はここから百合ヶ丘駅まで走る小田急バスに乗るつもりである。昨年12月に発売された「小田急時刻表」によれば、毎日1日3本のみ運転、今度の駅発は15時25分である。時間に余裕があるのは、おそらくこの系統の始発は駅ではなく生田営業所であろうから、そこまで歩こうと思ったためである。

 読売ランド前にロータリーはなく、バスは駅裏の街道に面したバス停から出る。交通量は多いが狭い通りで、茅葺き屋根の立派な家が建っている。昔の農道がそのまま車道に化けたような道である。バス停はすぐ見つかった。丸い鉄板の昔懐かしいタイプのポールである。

 ところが、停留所の時刻表を見ても肝心の千代ヶ丘経由百合ヶ丘駅行のバスが載っていない。高石経由と表記された系統があるが、これは1時間に1本運転されておりレアバスの範疇には入らない。1丁目経由というのもあり、これが本数からして小田急時刻表の言う「千代ヶ丘経由」くさいのだが、平日(月〜金)のみの運行で今日はやってこない。

 腑に落ちないままとりあえず生田営業所まで歩いてみる。が、営業所の時刻表でもやはり今日は千代ヶ丘経由も1丁目経由も運転されていない。ダイヤ改正でもあったのか、と日付を見ても12年4月20日改正とここ1年変わっていない。どうも小田急時刻表が間違っているらしい。小田急時刻表は発売直後、バス接続時刻の誤りや誤植が多数見つかって回収騒動があったのだが、ちっとも直っていない。

 わざわざ川崎まで出てきてこのまま帰るのも癪なので、代わりに乗れる系統があるか、と再びバス停の時刻表を凝視する。15時12分発西菅田団地行という、1日1本のみの路線を見つけて狂喜しかけたが、これは休日のみの運転とある。念のため近くにいた運転手に尋ねてみたが、皮肉にもこの系統は、土曜の今日は平日ダイヤとのことであった。運転手は新百合ヶ丘駅行のバスの清掃を始めた。このバスは頻繁に運転されているからもちろん乗るわけにはいかない。

 駅前の本屋に入って小田急時刻表を探す(買ってあるが持ってこなかった)。腹立たしいが代わりのレアバスを見つけるにはこの時刻表に頼るほかない。発売から4ヶ月たつのにいまだ平積みで売れ残っている時刻表を立ち読みし、小田急相模原駅(相模原市)へ転進する。目指すは国立相模原病院とJR相模線原当麻(はらたいま、に3000点)駅を結ぶ神奈中バス当01系統で、1日2本、今度の小田急相模原駅通過時刻は16時37分である。

 15時47分、小田急相模原駅に到着。どきどきしながらバス停の時刻表を見る。小田急時刻表と同じ時刻で、当01はたしかに存在した。が、よく見ると月〜金のみの運行で今日は運休である。慌てて駅前の本屋に入り、またも平積みされていた小田急時刻表をめくる。確かに今日は運休である。僕の見間違いだった。

 こうなると意地で、次に目指すのは相模大野駅(相模原市)16時05分発の神奈中バス大67系統愛川町役場行である。幸い小田急線に15時59分発各駅停車町田行がある。相模大野は隣の駅だからぎりぎりで間に合う。僕は上りホームへの階段を駆け下りた。

 各駅停車は2分遅れて小田急相模原駅に到着した。小田原始発で6両しかつないでないので乗降に手間取り、発車はさらに遅れた。相模大野駅の駅前広場にはもう大67は影も形もなかった。岡田屋モアーズの本屋に入ったが、残るは厚木バスセンター18時15分発の、神奈中バス厚75系統小沢行しかなかった。さすがに日が暮れてから乗る気は起きず、帰宅の途についた。

 で、翌週の土曜日である。

 各駅停車新宿行は、座間駅を発車するとスピードに乗りながら相武台に向けてカーブを切った。線路際の桜並木はすっかり散り、若葉が芽吹きだしている。初夏はもうすぐそこである。

 13時51分、柿生駅(川崎市麻生区)に到着。今日乗りにきたのは川崎市交通局の柿03系統しんゆりグリーンタウン行で、1日1本のみ(毎日運行)の正真正銘のレアバスである。柿生の駅前は非常に狭隘で、小田急・東急バスの一部は駅裏の空地に追いやられたりしているのだが、川崎市交のバスは表口の狭い駅前広場を独占的に使用している。ちょっとずるい。

 発車まで5分を切ってもバスは現れない。やきもきしていると発車時刻の14時ちょうど、たまプラーザ駅行の東急バスと連なって白と青に塗り分けた市バスが姿を現した。道路上で後ろの車を待たして客を降ろすと、赤く日焼けしたおっさんが立ち上がってバスを誘導し始めた。狭い広場を無理に直角に曲がってバス停に横付けする。東急バスは少し先の回転場まで行って折り返してくる。

 乗客は他におばあさんが2人。いずれもパスを持っており、200円払ったのは僕だけである。どこかで見たような光景ではある。

 14時01分、定刻より1分の遅れで発車。商店街に突っ込むが恐ろしく狭い。普通車でもすれ違うのにちょっと神経を使いそうな道である。次の角にも若い誘導員が立ち、こどもの国行の小田急バスを待たせている。左折すると学校の前で道幅が広がり、ここでも小田急バスがこのバスが来るのを待っている。各社でなかなかきわどいダイヤを組んでいるようだ。

 その学校の前で親子連れ3人が乗り込む。1日1本のバスに乗客があるのを不審に思ったのだろう。運転手は「しんゆりグリーンタウン行ですよ」と2度も声をかける。結局親子連れは丘を越えた次のバス停までの利用で、さらに1つ先でおばあさんの1人が降りた。ここまでは東急バスや、市バスの溝口駅行と同じ経路である。つまり柿03の実質的な利用者は僕のほかにはおばあさん1人きりである。

 複雑な形の交差点を何とか左折すると、ニュータウンの中に突っ込む。上り坂に沿って、ちょっと高そうな戸建て住宅が並んでいる。谷を隔てた向こうに高層団地が見える。丘の上にショッピングセンターがあり、そこから今度は下り坂になる。三井何とかとか日生住宅とか異なるディベロッパーの名を冠したバス停が続くが、もう境目なく一体化している。丘の斜面も頂上も全部住宅地である。

 バス停の間隔がとても短く、何人か待ち人がいる。が、このバスには誰も目をくれない。新百合ヶ丘駅か百合ヶ丘駅に行くバスを待っているようだ。後で分かったのだがこの柿03、ニュータウンの一番奥から入って新百合方向へ走っている。新百合も柿生も同じ小田急の駅なのだから、ちょっと走っている方角がおかしい。

 日生住宅の先でバスは左折する。ありゃ、これでは柿生駅の方向へ戻ってしまうのではないか、と思っていると果たして先ほど横目で通り過ぎた高層団地の中に入ってしまう。それがしんゆりグリーンタウンであった。銀杏並木の大通りがぷっつり途切れた所でバスは左折し、そこが終点だった。14時11分。おばあさんは結局ここまで乗り通した。バスは新百合ヶ丘駅行として折り返す。

 1つ手前のバス停前に、神社があったので寄ってみる。斜度45°を超えてそうな急な石段を登ると、小さな社殿があった。鴨居部の浮き彫りが良くできており、何らかの由緒はありそうだった。下から改めて見上げると、小さな山の上に立てられた社は、高層団地に囲まれた中で厳とした雰囲気を保っていた。

 なお、備え付けの案内板によるとこの白山神社、虫歯治癒に効用があるのだそうだ。僕にはあまり意味がない。


(つづく)


2001.4.15
on line 2002.9.1
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