カントリー・ロードを歩く 〜耳すまの舞台を訪ねて〜




 7月20日土曜日(2002年)。僕はレアバスに乗って京王線聖蹟桜ヶ丘駅(東京都多摩市)にやって来た。まだ午前10時だというのに、全くもって暑い。夏本番到来である。

 今日はこの後、高校野球神奈川大会を見に行き、母校を応援するつもりである。会場は大和引池台球場(神奈川県大和市)で、プレーボールは12時だから、まだ充分に余裕がある。この空き時間を利用して、行ってみたい場所がある。

 鉄道ファンの性だろうか、ドラマを見ていて電車が出てくると、ついどこの路線だろうと考えてしまう。ドラマの内容よりそっちの方に関心がでてくる。やがてそれが昂じ、鉄道が絡まなくてもロケ地が気になってくる。「セミダブル」で中井貴一と稲森いずみがすれ違ったエスカレーターは横浜の某銀行の前にあり、すぐ隣のビルのエントランスは「女医」の舞台になった病院のホールとして使われ、「危険な関係」で豊川悦司が殺されたのはウチの会社のすぐ前であることなど、無駄な知識が増えていく。

 それはドラマに限らず、アニメでも一緒である。そしてここ聖蹟桜ヶ丘は、1995年にスタジオジブリが制作した映画「耳をすませば」の舞台となった場所なのである。これは伝聞や憶測に基づくものではなく、ジブリのHPに聖蹟桜ヶ丘を参考としたと書いてある。ちなみに、前年に公開されたジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」も多摩ニュータウンが舞台である。スタッフに多摩市内の地理に明るい人でもいるのだろうか。

 ともあれ、レアバスのおかげで聖蹟桜ヶ丘までやってきたのだ。ここは一つ、映画の舞台を辿ってみようと思う。偶然の一致ではあるが、この映画、昨日TVで放送したところである。そして今日は、続編「猫の恩返し」の封切り日でもある。

 ちなみにここから、いつものである調ではなーんかしっくり来なかったので、ですますで。

▼聖蹟桜ヶ丘駅前

聖蹟桜ヶ丘駅前  主人公・月島雫が図書館に行くために京王5000系(横から見るとなぜか6000系)に乗り、下車した「杉の宮駅」がここ。駅前の京王百貨店が映画にばっちり登場します。

 雫の自宅最寄駅の「向い原」と「杉の宮」の間には、駅は出て来ません。また、多摩川を渡るシーンもありませんので、「向い原」は西隣の百草園駅ではないかと思います。僕は降りた事がないので、何とも言えませんが。

 聖蹟桜ヶ丘駅のメインの改札口は、京王百貨店に直結しています。が、映画での雫は改札をでるや否や町に飛び出しますので、裏側の西口がモデルになっていると思われます。

 写真は西口前の信号を渡った地点で撮影。京王線で乗り合わせた猫・ムーンを追いかける雫ですが、ここの赤信号に引っかかり見失ってしまいます。背後にはスターバックスが出店していますが、1995年の映画ですから勿論出てきません。

 ちなみに柊あおいの原作コミックでも「杉宮駅」が登場しますが、聖蹟桜ヶ丘を連想させる風景はありません。特定の街を念頭において描いたわけではないようです。


▼街を見下ろす階段

階段
 雫は坂を駆け上ります。日光いろは坂かと見紛う程に、カーブが連続する坂を駆け上ります。こんな坂道実在するわけがない、と誰しも思うところですが、実在します。スタバの脇の道を聖蹟桜ヶ丘駅から約5分、やがて道はうねり始るのです。その名もずばり「いろは坂」。

 カーブをショートカットしたり、坂から離れた住宅へと通じる階段がいくつか設けられていて、これはその1つ。映画に何度か出てくる(空想シーンから戻ってくる場面等)階段よりはやや幅が広いけれど、市街地を見下ろす光景は割と良く似ています。

 映画の中では、階段あるいは「地球屋」から丘を見下ろすシーンで電車や川が見えます。確かに地理的には、聖蹟桜ヶ丘の市街地の中を京王線が走り、さらに向こうには多摩川が流れてはいます。が、実際には高層ビルや団地が建てこんでいて、どちらも見る事は出来ません。ただし京王線は音だけは聞こえてきますし、建物の向こうに斜張橋らしき構造物(府中四谷橋か?写真のアングルよりやや右)が見えるので、川の場所もおおむね見当がつきます。

 ここの坂道、映画の中ではかなり交通量が多く、雫と接触しそうになるシーンも何度かあります。現実のいろは坂もかなり車が多いです。路線バスさえ通ります。交通量まで再現しているとは、侮りがたしスタジオジブリ。


▼図書館

図書館
 ここが雫が足しげく通う、そしてあの独特な声(笑)のお父さんが勤務する図書館です。…って図書館ありません。

 道路の向こう側、木立の中は公園となっていますが、ファンの中ではこの公園の位置に映画では図書館を置いた、という解釈が定説となっているようです。確かにこのカーブの具合、そして公園から街を見下ろす光景、よく似ています。

 また、原作でも「図書館」は左カーブ上り坂の途中にあり、立地条件は一致しています。特に、映画公開にあわせて描かれた続編「耳をすませば 幸せな時間」では、この地点(もしくは映画)をかなり意識して図書館が描き直されているように思えます。

 なお、本物の多摩市立図書館はここより南に1km、市役所の隣にあります。


▼邸宅と神社と

神社
 坂を登りきると高級住宅街の桜ヶ丘地区です。映画では雫の家は昭和40年代チックな団地ですが、親友・原田夕子の家はお屋敷です。写真右側の邸宅なんか雰囲気が似ていると思うのですがどうでしょう。

 正面の木立の中には、小さな社があります。杉村が雫に告白した、あの神社ですね。ここは映画も原作も実景も非常によく似ています。

 ちなみにここに来るまでに、観光客っぽい人と2度すれ違いました。特に2人目の女の子は、階段の上から携帯で写真を撮っていましたので、明らかに同目的かと。やはり昨日TV放映した影響が大きいのでしょう。

 この撮影地点から先は、緩やかに上り下りしながら丘の尾根を伝っていく事になります。


▼ロータリーその1

ロータリー1
 神社から100mちょっと歩いた、水道事務所前のロータリーです。「地球屋」のあるロータリーを彷彿とさせます。

 もっとも、道は周回せず、分岐点に樹木が植えられているだけですから、正確にはロータリーとは呼ばないでしょう。JR鶴見線浅野駅と良く似たつくりです(分かりにくい例えだなー)。ロータリーの西側(写真正面)は崖っ淵になっています。おそらく写真に写っているお宅からは、地球屋のテラスと同じ眺めが堪能できるに違いありません。うらやましい。

 いっぽう反対側には、多摩ニュータウンの団地群が広がっています。その向こう、丘の上に水道タンクが2つ望めるのですが、これは横浜市水道局の連光寺給水所です。ここは、映画のラストシーンの舞台になった場所のようです。個人的には、あのセリフさえ何とかなれば、「耳をすませば」も邦画史上に残る名作になると思うのですが(苦笑)。


▼ロータリーその2

ロータリー2
 上の写真地点から200m強、こちらは正真正銘のロータリーです。車がくるくる回っています。日本では珍しい光景と言って良いでしょうね。

 映画に出てくるロータリーの中央には木は1本しかありませんが、実際には何本もあります。桜ですので、ファンの方が春に撮られた写真を見ると、それはそれは美しいです。

 多摩川方面への眺望が開けている、という立地条件では「その1」のロータリーの方が映画に近いのですが、雰囲気ではこのロータリーもなかなか。写真左側の交番建物もちょっと洋風で洒落ており、無理に想像すれば「地球屋」に通じるものも。おそらく2つのロータリーをうまくミキシングして、映画のロータリーが作られたのでしょう。

 なお原作での「地球屋」は、普通に道端に建っております。

 ロータリーその2から南側を望むと、木立の向こうにコンクリート造りの塔が見えます。1km強先にある多摩ニュータウン愛宕団地の給水塔で、雫が住んでいる団地の中に建っている給水塔のモデルと言われています。

 そこまで歩くつもりだったのですが、なにぶんこの日は30度を軽く超える猛暑で、手前の東寺方団地(給水塔は愛宕団地にありますが、雫宅自体はこちらがモデルのようです)までたどり着いた時点でダウン。1.3km先の永山駅まで歩く気も起きず、バスで多摩センター駅に出ました。

 ファンタジー作品が主流のジブリ映画では、モデルとなった地点を探し出せる例は少なそうですが、「千と千尋の神隠し」にでてくる「油屋」はモチーフがあるそうです。また、最新作「猫の恩返し/ギブリーズ エピソード2」も日本の街並みが丁寧に描かれていますから、探訪の楽しみがありそうです。

 それでは今回はこの辺で。続編をお楽しみに!?


(終)

2002.8.4
on line 2002.9.15
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